2025.126「社外でも通用するプロを育てること」が大切で、その仕組みをどのようにつくるかが重要になっていると考えています。ミドル期以降は「キャリア自律」が重要に第三の観点は、「ミドル期以降のキャリア自律を応援する」です。日本ではいま、人的資本経営やリスキリング、人材流動化が進もうとしています。特に大企業などは、「メンバーシップ型雇用からジョブ型雇用へ」がトレンドになってきています。メンバーシップ型では、入社後に配属地や職種が決まり、その後も人事異動や配置転換があります。対してジョブ型は、この地域・この職種・この仕事、という契約を会社と結んで働くことが前提になっています。メンバーシップ型の強みは、未成熟な若者を一人前に育てていく仕組みです。メンバーシップ型のほうがよいのではないかと、慣れ親しんできたミドル・シニアの方々は思いがちですが、じつは若者はメンバーシップ型でしっかり育てて、ミドル・シニアはプロとして会社と対等に契約を結ぶような形で働くことがこれからは求められていくのではないでしょうか。そこで、ジョブ型・メンバーシップ型のハイブリッド型とを、自分のペースでチャレンジしているからでしょうか。ここにも、シニアを活かすヒントがあるような気がします。「働きやすさ」よりも「働きがい」を重視した経営を人を活かす経営、特にシニアを活かす経営をどのように考えていくのかについて、五つの観点からお話ししたいと思います。第一の観点は、「『働きやすさ』より『働きがい』を重視する」ことです。この十数年で働き方改革が進みました。働く人が多様になり、それぞれの事情に対応するなかで労働時間を短くしたり、休暇も取れるほうがよいという風潮になりました。現在の有給休暇の取得日数は、1984(昭和59)年以降、過去最高となっています。アメリカの心理学者、フレデリック・ハーズバーグは、職場環境や労働条件、給料などの「働きやすさ」を改善すると不満足は減るが、満足にはつながりにくい、ということを指摘しています。人は、一度獲得した権益はすぐにあたりまえになり、より好条件を求めるようになります。シニアはもちろん、会社で働く多様な人材が、それぞれ「もっと就業条件をよくしてくれ」と主張し始めたら、会社は崩壊するのではないでしょうか。 一方で満足度を高めることにつながるのが「働きがい」で、その要素としては仕事内容や、組織内における責任、達成感などがあげられます。働いている人々の幸せを考えると、ここに着目して、人を活かす経営を実践していくことが大切ではないかと思います。ただし、特に高齢期に入ると、労働条件のケアは必要ですので、まずは「働きがい」を考え、その実現のサポート要因として「働きやすさ」を考えていくことが重要ではないでしょうか。 第二の観点は、「人材囲い込みから流動前提の経営へ」です。ジェームズ・C・アベグレンという研究者が昔、日本型雇用の三種の神器として、「年功序列」、「終身雇用」、「企業内組合」をあげました。これは昭和の時代の話で、いまは大きく変わっています。 「年功序列」よりも労働市場でどう評価されるかという「市場価値序列」、「終身雇用」よりも自分で自分のキャリアをつくっていく「終身キャリア自律」が重要になってきています。また、「企業内組合」より、個人が会社の枠を超えてつながっていく社会になってきていると思います。「人を大切にする経営」とは、これまでは雇用を守ることだと考えられてきたと思います。もちろんそれも大切ですが、そのうえにいまは、
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