エルダー2025年1月号
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高齢者に聞くエルダー41な店舗が並び、取材の合間にも多くの人がお気に入りのチーズケーキを求めに来た。お客さまの笑顔が元気の素だと小林さんはうれしそうに語る。初代オーナーのレシピに学ぶ創業者の和田さんは96歳で亡くなられましたが、まさに生涯現役を貫かれました。アメリカの友人にふるまわれたチーズケーキが忘れられず、その友人の教えを受けながらレシピを研究し、定年退職後に元同僚2人とこの店を創業されました。その後もOBがここで働き多くの人に定年後の働く場所を提供してくださったのです。私は先ほど、まったく違う職種なのに不安がなかったとお話ししました。それは先輩たちが初代オーナーから受け継いできたレシピを忠実に守っていけばよいのだという思いがあったからです。もちろん、一人前になるには3年ほどかかりました。レシピ通りケーキを焼いても気温や自分の体調などで微妙に誤差が出てしまうのです。製造現場にいた先輩たちは、チーズケーキづくりはプラスチックづくりとよく似ていると話されます。住友ベークライトは樹脂製造の会社ですので、原料を正確に計算して成型する工程が似ているのかもしれません。私は、製造経験はありませんが、生産された製品に触れてきましたから、共通点というものがなんとなくわかるような気がします。私はわりと手先が器用な方で、古い話になりますが中学時代に運針という雑巾などを縫う授業がありましたが、私はいつも先生から褒められていました。手先の器用さというものもいまの仕事に役立っているかもしれません。何よりもモノづくりの世界で、そして元先輩や同僚に囲まれていたので、25年間も働き続けられたのだと思います。初代オーナーの後を継いだいまのオーナーにもたいへんよくしていただき、私は幸せ者だと思っています。現在は住友ベークライトのOBだけでなく、住宅メーカー出身者などさまざまな業界の一線で働いてきた人たちがともに働いている。平均年齢70歳を超える男性たちがつくるチーズケーキは、マスコミに何度も取り上げられてきた。そして、お客さまも男性客が多いそうだ。働き続けることの醍醐味ヨハンのチーズケーキの特徴は、製造後に冷凍庫で一晩寝かしてから店頭に並べるということです。寝かせることでしっとりさが増して、最良の状態で味わっていただくことができます。寝かせている間の作業はないので、2日出勤して1日休みというのが基本的な働き方です。現在9人で週3日から4日のシフトを組み、1カ月に20日ほど勤務しています。もちろん繁忙期もあり、なかでもこの目黒川のお花見の季節はすごい人出で、ケーキも飛ぶように売れてとても忙しいですが、お客さまが喜んでくださる顔を見ると疲れも吹き飛びます。朝は6時半に出社して午後3時ごろに帰るというのが日課です。私は川崎市に住んでいますので5時過ぎには家を出ます。仕事のある日は4時には起きるようにしています。初代オーナーの意志を継いで高齢者に働く場を提供してくれる現オーナーの期待に応えるためにも、長く働かせてもらえるよう健康には気をつけています。健康づくりと趣味を兼ねてウォーキングを続けており、地域の仲間たちと12‌kmほど歩いて名所めぐりをするのもオフの日の楽しみの一つです。オンとオフのメリハリがあるので体調もよいです。定年後も働き続けたいと考えている人は、あまり時間をおかずに次の仕事を始められた方がよいのではと、経験者としてお伝えしておきます。この25年間、いまの仕事を辞めようと思ったことは一度もありません。「おじいちゃんのチーズケーキの店」ということで、テレビに取り上げられ、それを見た長野の中学時代の友人から電話があり、いまもがんばっていることをほめられました。生涯現役であることの醍醐味をかみしめながら、明日も元気に工場でチーズケーキをつくります。

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