2025.142はじめにはじめに1労働災害における転倒は、近年増加傾向にあり、休業4日以上の死傷災害全体の約25%を占める最も発生頻度の高い災害となっています※1。特に50歳以上の高齢労働者において多発しており、60歳以上の労働者では死傷者数が増加しています。これらの背景には、高年齢者雇用安定法の改正により60歳以上の労働者が増加したことが要因としてあげられています。業種別では、第三次産業、製造業、陸上貨物運送業など幅広い分野で発生しており、特に第三次産業に属する小売業、社会福祉施設および飲食店では転倒災害が約30%を占めています。また、性別では女性労働者の発生率が高く、特に50歳以降の女性労働者において顕著となっています。転倒災害の特徴として、「いつでも」、「どこでも」、「だれにでも」発生する可能性があり、一瞬のできごととして発生するため、予防対策が困難な労働災害として認識されています。今回、特に転倒災害の要因のなかでも、「内的要因」を中心に概説します。転倒災害の要因転倒災害の要因2転倒災害の要因は、「内的要因」、「外的要因」、「社会管理的要因」、「傷害増幅要因」の四つに大別され、これらが複雑に絡み合い転倒災害が引き起こされます(図表1)。内的要因には、運動機能低下、認知機能低下、視覚機能低下、身体・精神的疾患、服薬状況など、個人の身体機能や健康状態にかかわる要素が含まれます。外的要因としては、床面の摩擦係数、凹凸、段差、手すりの有無、照明条件、通路幅など、作業環境にかかわる要素が該当します。社会管理的要因には、整理・整頓の状態、作業時の焦りや規則違反、職場風土などの組織的な要素が含まれます。傷害増幅要因には、身体強度・耐性、回避能力(敏捷性)、骨強度、内臓耐性など、※1 厚生労働省「令和5年における労働災害発生状況(確定)」(2024) 高齢従業員が安心・安全に働ける職場環境を整備していくうえでは、加齢による身体機能の変化などによる労働災害の発生や健康上のリスクを無視することはできません。 そこで本連載では、加齢により身体機能がどう変化し、どんなリスクが生じるのか、 毎回テーマを定め、専門家に解説していただきます。第2回のテーマは「転倒災害」です。身体機能身体機能のの変化変化安全・健康対策安全・健康対策とと愛知医科大学医学部愛知医科大学医学部衛生学講座衛生学講座川川かわかわ越越ごえごえ隆隆たかしたかし職場における「転倒災害」の防止対策のポイント第2回加齢 による
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