エルダー2025年1月号
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2025.144ます。さらに、バランスを維持するための生体の防御機能である足関節戦略、股関節戦略、踏み出し戦略においても、加齢とともに足関節戦略を利用してバランスを維持できる領域が狭くなり、より不安定な股関節戦略や踏み出し戦略に依存せざるを得なくなってきます(図表4・5)。服薬状況と転倒リスクの関連性服薬状況と転倒リスクの関連性4転倒災害のリスク要因として注目されているのが服薬状況です。高齢労働者を対象とした研究によると、転倒を増加させるリスクのある薬剤の服用は、転倒災害の発生割合を2・23倍に高めることが近年明らかになっています※2。特に、ベンゾジアゼピン系薬剤、非ベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗精神病薬、抗うつ病薬、抗コリン薬、降圧薬、利尿薬などFall Risk Increasing Drugs(FRIDs)と呼ばれる転倒リスクを高める薬剤として指摘されています※3。これらの薬剤は、眠気やふらつき、注意力低下、失神、めまい、低血圧などの副作用を引き起こし、転倒リスクを高めます。高齢労働者は複数の疾患を抱えていることも多く、多剤併用による相互作用や副作用が問題となります。現在の産業保健の現場では、労働者の服薬情報を本人の承諾を得て取得することがむずかしい状況にありますが、転倒災害のリスク低減の観点から、服薬管理を含めた包括的な健康管理体制の構築が求められます。健康状態と転倒リスクの関連性健康状態と転倒リスクの関連性5転倒リスクはさまざまな健康状態と密接に関連しています。特に糖尿病は、高齢労働者においても、転倒リスクを高める要因となることが報告されています※4。また、最近、女性労働者を対象とした研究において、貧血が転倒災害のリスク要因となることが報告されています※5。さらに、視覚機能の低下も重要なリスク要因であり、視力が0・3未満者では転倒災害のリスクが2・27倍に増加することが明らかにされています※6。これらの健康状態における転倒のリスクの関連性は、加齢とともに増加する傾向にあり、そのほかの要因と複合的に作用して転倒リスクを高めるものと考えられます。転倒災害を防止するうえで転倒災害を防止するうえで事業者に求められる対策事業者に求められる対策6職場での転倒予防のために、厚生労働省より「いきいき健康体操※7」や「転倒予防体操※8」が公開されています。これらの体操は、専門家により監修されており、これら転倒予防体操の実施は、運動機能の低下に歯止めをかけ、日常生※2 Osuka Y et al., Geriatr Gerontol Int. 22(4):338–343, 2022※3  日本老年医学会・日本医療研究開発機構研究費・高齢年齢の薬物治療の安全性に関する研究研究班:高齢者の安全な薬物治療ガイドライン2015.メディカルビュー社、東京, 2015※4 Osuka Y et al., Occup Med. 73(3):161-166. 2023※5 Shima A et al., J Occup Health. 2024. doi: 10.1093/joccuh/uiae063. 図表3 加齢にともなう運動機能の変化出典: 川越隆「高年齢労働者の転倒災害防止対策『安全作業能力テスト』と『いきいき安全体操』による転倒リスク低減の試み」『労働の科学』66(11),678-684,201120ー24歳時からの相対的変化率(敏捷性・認知機能:スクエア-ステップ)(静的バランス・閉眼片足立ち)100.0100.097.997.991.491.495.595.588.288.288.388.387.387.359.259.252.352.381.181.1・開眼片足立ち(静的バランス)・閉眼片足立ち(静的バランス)・ファンクショナルリーチ(動的バランス)・Time up and go(移動能力)・スクエア-ステップ(敏捷性)・最大1歩幅(柔軟性)・椅子立ち上がり(下肢筋力)(%)01201008060402020-24(n=364)年代25-29(n=323)30-34(n=347)35-39(n=387)40-44(n=264)45-49(n=200)50-54(n=145)55-59(n=354)60-64(n=145)加齢とともに、特にバランス機能が大きく低下→転倒危険性を増大させるリスク立位バランス悪化転倒危険性を増大84.284.246.346.337.537.570.570.572.072.071.071.027.627.669.269.272.972.979.979.9反応性遅延危険回避能力の低下

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