なっている従業員は、旧会社における労働条件を維持したまま、働き続けることができるのが原則となります。しかしながら、新会社では、継続雇用にかぎらず、労働条件を定めた就業規則およびそれに付随する各種規程が定められていることが通常であり、旧会社で定められていた労働条件を維持し続けることは同一企業内での不公平を生じさせることにもなりかねず、労働条件の統一が課題になることがあります。したがって、合併後に旧会社から承継した労働者について、就業規則の変更や個別の同意を得ながら、労働条件を変更することによって統一を図ることになります。継続雇用の従業員についても、同様に労働条件を統一することも可能ですが、期間の定めがある労働契約であることから、次回の更新時に労働条件を調整するような方法がとられることがあります。裁判例の紹介2合併によって承継した継続雇用の対象者から継続雇用の希望が示されたことに対して、契約更新時に労働条件を変更した内容で提案したものの、この申出を従業員が断ったため、契約を更新しなかったところ、継続雇用の期待を有していたにもかかわらず、これを合理的な理由なく拒絶されたとして、従前と同一条件による継続雇用の維持を求めて訴えた裁判例があります(東京地裁令和6年4月25日)。状況としては、質問と同種であり、事業継続困難な状況から、合併により事業を継続し、従業員も承継されていた新会社において、継続雇用の更新時に労働条件を変更する提案をしたというものであり、合併後の状況としては、よくある内容であると思われます。労働契約法第19条は、有期労働契約について、「契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することが合理的な理由があるものであると認められる」ときには、有期労働契約更新の「申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす」と定めています。したがって、更新されるだろうという合理的な理由のある期待を保護し、更新拒絶には客観的かつ合理的な理由と社会通念上の相当性が必要とされています。紹介する裁判例では、この規定の解釈として、更新されることへの期待とは、その法的効果が同一の労働条件で更新したものとみなすものとされていることから、合理的な期待として保護される対象となるのは「同一」の労働条件で更新されることが期待されていることをさしていると解釈しました。そして、合併に至る手続き内において、継続雇用対象者に対しては、新会社の定める規程が適用されること、それによって労働条件が不利に変更されることになること、新会社の規程では継続雇用においては2種類の働き方(管理職相当を維持するか、一般職として業務軽減するか)があり、それぞれの労働条件を比較して選択することが説明され、また、規程はイントラネット上に掲載して内容を確認可能であったことなどから、従前と「同一」の労働条件が維持されることは期待されていなかったとして、労働契約法第19条の適用を否定し、継続雇用をしなかったという新会社の判断を肯定しています。なお、労働条件の変更の程度としては、管理職相当の地位を維持する場合には労働日が週4日から週5日に増加する一方で基本賃金が15%減少するというものであり、一般職相当になる場合には週4日の労働日が維持されつつ賃金が約51%減少するというものでした。さらに、仮に労働契約法第19条の適用があるとしても、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が肯定されることも補充的に判決内で示すことで、その結論を補強しています。更新拒絶したことについて客観的かつ合理的な理由があるか否かについては、有期労働契約の更新時に示した労働条件に合理性があるか否かによることになるとし、新エルダー47知っておきたい労働法A&Q
元のページ ../index.html#49