に関する情報(IPアドレス、タイムスタンプ、ポート番号など)の開示に応じる必要があります。とはいえ、投稿から3カ月程度しか発信を特定するためのログは保存されていないことも多いので、投稿自体が古い場合には、特定がかなわない場合もあります。そのような場合には、せめて削除をするために、プロバイダに対して削除請求をすることで投稿自体の削除を求めるという手続きも存在します。SNSやインターネットを通じた情報発信の特徴として、①伝播可能性(発信された情報が拡散される)、②公共空間性(不特定多数の閲覧が予定されている)、③情報の保存・維持(一度発信した情報は削除してもアーカイブなどに保存されることがある)、④特定可能性(匿名の発信であっても技術的には特定することは可能)、⑤発信の安易さ(いつでも、どこでも発信が可能)といった特徴があるといわれています。これらのうち、①伝播可能性や②公共空間性の特徴から、不特定多数の第三者にまで情報が拡散され、会社に対する信用の毀損が生じやすく、閲覧者の反応次第で影響の拡大は予測不可能なほどに大きくなるおそれがあります。名誉・信用棄損に該当する行為に対する懲戒処分2SNSによる投稿は、私生活上で行われたものと考えられ、就業時間中の行為ではないと思われます。労働契約では、あくまでも就業時間中の行為に対する指揮命令権が与えられているにすぎないため、私生活上の行為まで懲戒処分の対象にすることはできません。しかしながら、私生活上の行為であったとしても、その行為が職場の風紀を乱したり、会社の信用を毀損したりすることで、会社に対する悪影響を及ぼす場合には、当該行為を対象に懲戒処分を行う余地はあります。過去に就業時間外における会社批判を根拠として行われた懲戒処分の効力が争われた先例があります。就業時間外に社宅に会社を批判するビラを約350枚配布した事例で、当該ビラに記載された内容が事実無根であったことから、就業規則に定める「その他特に不都合な行為があったとき」に該当するものとして、譴けん責せき処分を有効と判断しています(関西電力事件 最高裁一小 昭和58年9月8日)。このような判例に照らすと、SNSに会社を誹謗中傷する事実無根の投稿をしたときには、懲戒事由に該当することが前提ではあるものの、譴責程度の懲戒処分を行うことは可能と考えられます。なお、懲戒処分を行うためには、就業規則上の根拠が必要となり、懲戒事由として、「職場の風紀を乱さないこと」や「会社の信用を毀損する行為をしてはならない」といった内容が定められているか確認しておく必要があります。SNSへの投稿と会社に対する名誉・信用毀損の成立要件3会社の名誉・信用を毀損する場合には、当該投稿を行っている者は、会社に対する不法行為責任を負い、名誉回復措置も命じられることもあります(民法709条および723条)。ただし、公共の利害にかかわる事実を適示する表現が、①適示された事実が真実である場合、または、②真実と信ずるについて相当な理由がある場合には、名誉・信用を毀損する表現であったとしても不法行為責任を負担することはありません。また、公共の利害にかかわる意見や論評については、その意見や論評の根拠とした事実が上記の①や②に該当する場合に加えて、③意見・論評としての許容される表現の域を逸脱していない場合にも不法行為責任を負担しません。このような理由で名誉・信用毀損として不法行為責任を負わないにもかかわらず、懲戒処分を行ったときには、懲戒権の濫用となり、懲戒処分が無効になると判断した事例もあります(三和銀行事件 大阪地裁 平成12年4月17日)。投稿内容がいずれも事実ではないとすれば、名誉・信用毀損に該当するといえそうですが、懲戒処分等を検討するには当該投稿が名誉・信用毀損といえるかどうか判断するために、表現全体をみたときに意見論評としての域を逸脱しているか否かについても精査する必要があります。エルダー49知っておきたい労働法A&Q
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