エルダー2025年2月号
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長期キャリアへの理解の促進が役職定年制に新たな意味を持たせるいくための必要な視点だといえます。それでは、実際に企業や企業で働いている人は役職定年制についてどう感じているのでしょうか。私も参加したJEEDの調査※1では、企業側から見て、役職定年となった人の「仕事に対する意欲」が「下がった」と感じている割合が46・9%、「変わらない」が38・5%で、「上がった」と考える意見はほとんどありません。ただし、60歳以降の職業生活の設計への意欲が高い人、つまり、職業生活のキャリアを少しでも考えているような人たちの意欲が下がった割合は4割程度、逆に考えていない人たちは54%となるので、キャリアを考えた際に、役職定年制のさまざまな意味合いを理解することができた人は、意欲が下がる割合が減ると考えられます。また、役職を降りたあと、面談を実施しているかどうかの状況をみると、面談を行っている企業で意欲が下がった人は45%、面談を行っていない企業は52%ですから、役職を降りたあとに面談をすることによって、役職を降りた人がその後どういうキャリアを歩んでいくかについて、企業と社員がお互いにコミュニケーションをとることが必要だということがわかります。企業側から見て、役職定年制が60歳以降の職業キャリアを考えるためにどの程度役に立っているかについては、全体の傾向として役立っていると考えているのが55%、あまり役に立っていないと考えているのが40%ほどとなっています。ただし、キャリア相談や役職定年後の面談を実施している企業ほど、「役に立った」が高くなる傾向にあります。次に、実際に役職定年の経験者に目を向けると(JEEDの別の調査※2)、役職定年制が役に立ったと考える人は4割ほどで、役に立っていないと考える人が6割と、この制度に対する経験者の評価は厳しいといえます。ただし、職業生活やキャリアについてこれまで考えてきた人、あるいはキャリア面談や支援などを受けてきた人ほど、「役に立った」と考える人は多い傾向にあります。役職定年制がキャリアを変える大きな制度という意味合いを理解できている、理解するための取組みを会社が行っているという層にとっては、この制度の意味が、組織のポスト不足とか組織の活性化だけではなく、キャリアを変えることによって、より長く働いていくことができると考えていると思います。役職定年制による社員のモチベーション低下を防ぎ、かつ長く働くことを意識してもらうためにも、キャリアに関する相談や研修、面談などを通して、降りるキャリアへの理解をしてもらうこと、あるいは長い職業人生のなかにはさまざまなキャリア段階があり、若手社員を支援・指導する時期がくることなどを理解してもらうことが重要です。知るための自己申告制度、あるいは企業がどうしてほしいかを知る仕組み、自分がどうしたいのかを伝える仕組み、相談できる仕組みがうまく機能すれば企業と個人のミスマッチをなくしていくことができると考えます。び直すなど、いま流行りのリスキリングなども、キャリアの問題とあわせて役職定年制を考えることができれば、また別の意味で、この制度が働く人にとってよい制度になっていくと考えられます。そのためにも、例えば、働く人のことをよくミスマッチが起きたときに足りない能力を学2025.224※1  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『資料シリーズ No.1 調整型キャリア形成の現状と課題ー「高齢化時代における企業の45歳以降正社員のキャリア形成と支援に関するアンケート調査」結果ー』(2019) こちらは、JEEDホームページよりご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/research/report/document/series1.html➡※2  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構『65歳定年時代における組織と個人のキャリアの調整と社会的支援―高齢社員の人事 管理と現役社員の人材育成の調査研究会報告書―』(2018)

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