額払いの原則に反するとは考えられていません。したがって、賃金の後払いや功労報償としての性質を有する退職金について、その発生条件として、懲戒事由が存在しない旨を定めておくことは賃金全額払いの原則に抵触するものではなく、有効になり得ると考えられています。しかしながら、そもそも懲戒事由として定めた規定の有効性が問題となるほか、懲戒事由といえどもその程度はさまざまであることから、単に懲戒事由に該当しさえすれば、退職金の減額または不支給ができるとは考えられていません。2会社が定めていた競業避止義務および守秘義務に違反したことを理由として、退職金の全額を大幅に減額としたことの有効性が争われた事件があります(東京地裁令和5年5月和5年11月30日判決)。この事件では、雇用契約書の備考欄に「退職するに至った場合に退職後1年を経過する日までは、当社が競合若しくは類似業種と判断する会社・組合・団体等への転職を行わないことに同意する。但し、当社の事前の同意があった場合はこの限りでない」という趣旨いるとしても、直ちに退職金を減額または不支給できるとは判断しておらず、「退職金の性質からすれば、本件競業避止義務違反をもって直ちに退職金を不支給又は減額できるとするのは相当といえず、本件減額規定に基づき、競業避止義務違反を理由に業績退職金を不支給又は減額できるのは、労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られるとするのが相当である」という限定を付しています。よく用いられるフレーズが、「労働者のそれまでの勤続の功を抹消ないし減殺してしまうほどの著しく信義に反する行為がある場合に限られる」というものであり、これは勤続期間が長く会社への貢献が大きければ大きいほど、減額や不支給が困難であることを示しています。されていたプロジェクトにかかわる競業企業に転職しており、また、元の勤務先における秘密情報を大量に印刷して少なくともその一部は社外に持ち出すことを目的としていたことなどが裁判所で認定されており、競業他社への転職のケースにおいても、特に悪質なものでした。の内容が悪質であること、原告が故意に競業の規定が定められているほか、社内では数回にわたり、競業避止義務に関する説明を行い、退職前に競業避止義務違反があった場合には退職金の一部または全部が払われなくなることを説明していました。なお、会社は、労働者に対し、退職時にも競業避止義務を定めた合意書の締結を求めていましたが、労働者がこれを拒絶したため、退職時の競業避止義務の合意は成立していませんでした。裁判所は、まず競業避止義務の有効性について、「労働者は、職業選択の自由を保障されていることから、退職後の転職を一定の範囲で禁止する本件競業避止条項は、その目的、在職中の職位、職務内容、転職が禁止される範囲、代償措置の有無等に照らし、転職を禁止することに合理性があると認められないときは、公序良俗に反するものとして無効であると解される」として、その有効性は限定的に判断されるべきという基準を示しました。この基準は、労働者の競業避止義務の有効性に関して一般的に用いられる判断基準です。この事件では、当該労働者の立場から会社の重要なノウハウなどを知ることができたことなどを理由として、期間も不相当に長いものでもないことから、競業他社に転職されることを防ぐための競業避止義務は有効と判断されました。ただし、競業避止義務が有効に設定されて退職金の減額または不支給の判断においてこの事件は、労働者が、元の勤務先で検討結論としては、「原告の競業避止義務違反裁判例の紹介エルダー51知っておきたい労働法19日判決およびその控訴審である東京高裁令AA&&Q
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