エルダー2025年3月号
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即戦力採用について2即戦力として中途採用したという点が未経験で採用した状況とは異なっています。即戦力として期待された人材については、将来予測の原則から求められる改善の機会などについて、新卒採用と比較すると、その必要性が後退すると考えられています。しかしながら、労働市場が活性化して、転職も珍しくないような状況ですので、将来予測の原則の後退を認めるほどの事情があるのかという観点から、単に職歴がある中途採用による転職と、即戦力として期待された人材は区別される必要があります。例えば、会社が英語のビジネス利用に関する経験があり即戦力となる人材として募集し、英語力に秀でた人材で、かつ、期待される能力を過去の職歴においても明記していたことから中途採用したような場合には、今後の改善の機会の確保をする必要性が減退すると考えられます。過去の裁判例では、類似の事案において、期待される職務に関する経験が必要であることを明示して募集し、中途採用された労働者本人も会社に期待されていた能力などを理解していた事例においては、雇用時に予定された能力をまったく有さず、これを改善しようともしない場合は、解雇せざるを得ないと判断された例があります(東京地裁平成14年10月22日判決、ヒロセ電機事件)。他方で、中途採用時の年俸が高額かつ役職を与えられた状態であった場合であっても、募集時に「経験不問」との記載があり、一定期間稼働して求められる能力や適格性を平均的に達することが求められているに留まるものと判断された例もあります(東京地裁平成12年4月26日判決、プラウドフットジャパン事件・第一審)。したがって、即戦力として期待されるような人材と認定されるには、募集時に期待される能力を明確にしておくことは必要であり、求人票以外の採用前の説明内容など採用に至った経緯も重要です。即戦力としての採用について、期待する能力や必要な素質について、どの程度具体的に伝えられていたかによって、改善の機会を与えるべき期間や頻度が左右されることになりますので、採用時の状況や採用に至った経緯を整理する必要があります。改善の機会の与え方や期間について3「改善の見込みがないこと」が解雇を実施するにあたって重要であることは間違いありませんが、その判断は非常に困難です。担当している業務の内容や任されている地位などにも左右されますし、会社の状況によってあくまでもケースバイケースで判断されてしまうため、一定の基準を示すことはむずかしいものです。とはいえ、何らの指標もないままでは、実務的にどのように判断すればよいのか具体的に検討することすらできませんので、過去の裁判例を参考にしてみましょう。即戦力と期待された人材ではない中途採用の事例ですが、能力不足や勤務態度不良を理由とした普通解雇が有効とされた事例として、東京地裁平成26年3月14日判決(富士ゼロックス事件・第一審)があります。中途採用で採用された労働者が、無断で3回の半休を取得したこと、机での居眠り、無断残業、通勤費用の修正、週報の提出遅れ、社用の自転車の私的利用、私用のインターネット閲覧を逐一注意され、これ以上の違反が生じた場合に重大な判断がありうる旨記載した警告書を交付され、それに対して署名押印をした後、会社の命令でほかの支店に異動してさらに改善を求められたが、異動後も遅刻し、ビジネスマナーが守られず、メモを取らないうえ、ミスを多発していたので、再度研修を実施しましたが、改善できず、再度の警告書を交付しました。違反事由が多岐にわたるうえ、改善の具体的な見通しがつかないことから、会社は、指示事項を文書化し、その後、当該文書に違反した場合に逐一注意し、複数の指示事項違反が生じた後に、原因と対策を検討するようにエルダー43知っておきたい労働法A&Q

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