エルダー2025年3月号
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■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー49での年度別推移をみても、実施した企業数が最も多かったのが2009年、次に多かったのが2020年という状況からもみて取れます。しかし、インバウンド(訪日外国人観光客)需要等により国内景気が堅調とされる2024年も2020年・2021年に次ぐ早期・希望退職の募集規模で、募集人員数も1万人を超える集計になっています。個別の企業をみると、たしかに業績悪化への対応が理由と思われる会社もありますが、これまでとは異なる傾向もみえてきます。そのうちの一つが募集企業のうち最終利益が黒字の企業が約6割あるという点です。これらの会社にみられる実施理由が、事業内容の見直しです。もう一つが、年齢制限を設けずに募集をする企業が増えてきたという点です。従来は、人件費負担を軽くするために比較的賃金水準の高い中高年層を対象としてきましたが、募集の目的が事業の見直しであれば、年齢や賃金水準の高低よりも事業を遂行できるスキルを有した人材の確保が課題となるため年齢制限は大きな意味をなさなくなります。これらのことから、近年は事業の再編成という広義のリストラクチャリングが広まってきているといえます。その理由として大きいのは、これまでのビジネスモデルを見直さざるを得ないという点です。製造業の場合は、グローバル競争の激化にともない、日本企業の収益構造では勝てない製造品目や拠点から撤退し収益性の高い部分への集中を進める、小売業の場合には店舗数の拡大により収益を生み出すという手法が人件費や物価等の高騰、人手不足により成り立たなくなったため、旗艦店への店舗の集中やインターネット販売の強化を進めるといった事例があげられます。事業の再編成は社会の課題でもあるリストラクチャリングという用語を直接は使っていないものの、政府の資料でも事業の再編成については、たびたび言及されています。例えば、2021年6月18日に閣議決定された「成長戦略実行計画」では、製造コストの何倍の価格で販売できているかを示すマークアップ率※2が日本は1・3倍にとどまりG7諸国のなかで最も低く(最も高いのはイタリア2・5倍、次に高いのは米国1・8倍)、新製品や新サービスを投入した製造業の割合は9・9%と先進国のなかでも最も低い(最も高いのはドイツで18・8%、イタリアは17・8%)ことに対して、日本企業が付加価値の高い新製品や新サービスを生み出し、高い売価を確保できる付加価値を創造することで労働生産性の向上を図る必要があると問題提起しています。また、2024年6月21日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2024」では、社会課題の解決と持続的な経済成長の実現に向け、官民が連携してグリーン、デジタル、科学技術・イノベーション、フロンティアの開拓、経済・エネルギー安全保障等の分野において、長期的視点に立ち、戦略的な投資を速やかに実行し、人材や資本等の資源を成長分野に集中投入していく旨が述べられています。「雇用政策の方向性、雇用維持から成長分野への労働移動の円滑化へとシフトしていく」とのふみ込んだ記載もあり、事業の再編成は個々の企業だけでなく、社会全体で推進していく課題として政府もとらえていることがうかがえます。ただし、事業の再編成にともなう労働者の生活やキャリアには十分に配慮しておきたいものです。先述の基本方針2024でも賃上げやリスキリングの必要性が述べられていますが、労働移動や従事職務の変更を円滑に行うのであれば、それらは必要不可欠になります。また、企業としてはマルチスキル化の推進や配置転換を図ることで、望まない社外への労働移動を行うことなく、事業再編成を可能なかぎり実現していくという観点も必要かと思います。次回は、「グローバル人材」について取り上げます。※2 マークアップ率……分母をコスト(限界費用)、分子を販売価格とする分数。この値が1のとき、販売価格はちょうど費用を賄う分だけを捻出していることになる

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