エルダー2025年3月号
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2025.362洗濯した生地に、伸子を張ってしわを伸ばす「伸子張り」。伸子を張る間隔は生地ごとに違い、生地に触れた指先の感覚で瞬時に判断するきれいに仕上げることができる。「大切な着物が色落ちや色移りしないように気をつけながら、汚れをしっかり落とすには、一つひとつ手洗いするしかありません。きれいな生地に戻してから仕立て直すことで、新品同様によみがえります。洗い張りは着物を親から子へと受け継ぐ際などに最適です。新しい着物を買うより安くできることもあり、お客さまに喜ばれます」そう話すのは、東京都葛飾区で着物の専門店「鹿か島しま屋や」を営む田川城道さん。洗い張りの職人として60年近いキャリアを持つ。「私が役員を務めている『東京きもの染洗協同組合』には、染色、洗い張り、しみ抜きなど着物に関係した業者が加盟しています。私が子どものころ、組合員は約1500人でしたが、現在はわずか50人ほどです。なかでも、当店のように洗い張りを自前で一から十までやる店は、都内でも数軒しかありません」長年の経験と勘で生地に適した洗い張りを行う洗い張りは、職人の経験と勘がものをいう仕事だ。着物の生地にはさまざまな種類や柄があり、汚れ具合も異なる。そのため、個々の生地の状態を見きわめ、それに適した対応が求められる。「水洗いの際は、ササラという竹でできた道具で汚れを落とします。強い汚れは入念にこする必要がありますが、黒い生地だとどうしても擦れて白っぽくなります。もし擦れが出た場合は、ロート油を刷毛で塗る『擦れ張り』という方法で直せます。このように着物の状態をみながら、一つひとつ対応できるのが手作業のよいところです」洗い終えた生地のしわを伸ばす方法の一つに「伸しん子し張ばり」がある。竹ひごの両端に針がついた伸子を生地の両端に刺すことで、生地に「工程が多い洗い張りですが、日本の伝統文化である着物のよさを伝えるために、手抜きをせず一枚一枚大切に仕上げています」

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