エルダー2025年4月号
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エルダー37重要な問題となります。意識を失う、あるいは身体の麻痺が発症すると、例えば、前方の車両に対して、ブレーキを踏まなければという認知・判断自体ができない、判断ができたとしてもアクセルからブレーキペダルに足を移動して停止させることもできなくなります。また運転中に発症し、意識消失が生じた場合には、1回の衝突だけではなく、多重事故になり複数台の車両や歩行者、そして道路標識、看板などの損害が発生することがあります。また特定の疾患によらず、治療のために服用している薬の影響による交通事故もあります。病院からの処方薬あるいは処方箋なしに薬局で購入できる薬、いずれもが運転に影響する副作用を生じる場合があり、多くの薬剤の添付文書においても、運転を控えるべき、あるいは運転禁止というような添付文書が示されていますので注意が必要です。では、「そのような心臓疾患や脳卒中を防止したい」、そして「運転中の発症リスクを下げたい」ということになりますが、CT、MRIなど医療機器の発達によって、われわれの脳の形態を断層撮影して可視化することがかなり鮮明にできるようになってきたものの、脳の働きを可視化することや発症の予測や事故の予兆検出の方法は未だありません。これらの疾患の発転に支障のあるものとして、認知機能の低下、身体の麻痺、意識消失をともなうような各種疾患などが指摘されており、これらの疾患はいずれもその疾患がもとで、安全な運転能力が維持できなくなる恐れのあるものです※2。本稿においては、急性に発症する場合と慢性的に発症する場合などに分けて、最近の研究成果の一部をご紹介いたします。急性発症急性発症3国土交通省の資料によれば、運転中に発症して交通事故に至った人数は2465人(2013〜2021年の9年間)で、心筋梗塞、心不全などの心臓疾患が369人(15%)、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血など脳卒中が339人(14%)、大動脈瘤および大動脈乖離が77人(3%)と報告されています(図表)。このなかには死亡に至った例があり、426人(17%)となっています。各疾患群ごとに分類した死亡事故比率は、心臓疾患55%、脳疾患、および大動脈解離などが各12%となり、運転時の心臓疾患発症の死亡率が高いことがわかります。脳卒中は、高齢者にかぎったものではなく、壮年期の働き盛りの方にも発症の可能性がありますので就労者にとっても雇用者側にとっても※2 詳細は法務省ホームページを参照 https://www.moj.go.jp/content/000107459.pdf症を防ぐための公衆衛生的な知識が重要になります。その第一は、健康診断や人間ドックで定期検診を受けていただき、脳卒中のリスクが高い方を見いだして、少しでもそのリスクを下げることが必要になります。また、要精密検査となった場合、確実に精密検査を受けていただくことが必要となり、職場での受診喚起も重要です。運転を職業としている方々においては、9時から17時までの勤務の方、深夜勤務の方、さらには長距離を重量物を積載して運転される方な 計2,465人 計2,465人心臓疾患(心筋梗塞、心不全等)369人、15%心臓疾患(心筋梗塞、心不全等)369人、15%その他976人40%その他976人40%不明424人17%不明424人17%大動脈瘤および解離77人、3%大動脈瘤および解離77人、3%呼吸器系疾患163人、7%呼吸器系疾患163人、7%消化器系疾患117人、5%消化器系疾患117人、5%睡眠時無呼吸症候群2人、0.08%睡眠時無呼吸症候群2人、0.08%脳疾患(くも膜下出血、脳内出血等)339人、14%脳疾患(くも膜下出血、脳内出血等)339人、14%図表 健康起因事故を起こした運転者の疾病別内訳(平成25年~令和3年)出典:国土交通省・令和4年度事業用自動車健康起因事故対策協議会「健康起因事故発生状況と健康起因事故防止のための取組について」身体機能身体機能のの変化変化安全・健康対策安全・健康対策とと加齢 による

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