エルダー2025年4月号
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インロジ事件があります。この事件は、使用者が従前支給していた手当を廃止して定額残業代の制度を新設したことにより、労働者の残業代の算定の基礎となる賃金が減少する不利益が生じたため、労働者が使用者に対して、制度変更が無効であることを前提に、未払残業代などの請求を行ったという事案になります。この事案では、会社は、制度変更前に従業員に対する説明会を実施したうえ、口頭または書面による同意を得た従業員から新しい給与体系により給与を支給し、また、労働者からは、新給与体系を反映した労働条件通知書兼労働契約書の署名捺印をもらっていましたが、同意による変更および就業規則の変更による条件変更はともに否定されました。すなわち、裁判所は、同意による変更が認められるかという点に関して、「被告従業員が新給与体系の変更について自由な意思に基づいて同意したといえるためには、被告従業員が新給与体系の変更に関する同意に先立って、新給与体系への変更により労働基準法37条が定める計算方法により時間単価を算定した時間単価が減少するという不利益が発生する可能性があることを認識し得たと認めることができることが必要であった」と指摘したうえで、「平成25年労働条件通知書の控えは原告らに交付されておらず、新給与体系への変更に関する説明会における説明内容、本件よる同意の取りつけ、新給与体系を反映した契約書の締結といった対応をしているにもかかわらず、制度変更の有効性が否定されていますが、会社からの情報開示や説明が不十分であったことが重視されていると考えられます。制度変更を進める際には、制度変更の必要性を吟味したうえで、労働者に対して適切に情報を提供しているかについては最低限注意すべきでしょう。説明会資料の記載は前記のとおり旧給与体系における基礎賃金の範囲すら正確に把握することが困難であったと認められ、原告らが新給与体系の変更に同意した際、時間単価が旧給与体系に比して約69%から約81%の幅で減縮されるという不利益が発生することが認識し得たとは到底認められない。そうすると、原告らが自由な意思に基づいて新給与体系の変更に同意したと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとは認められない」と判示し、同意による変更を否定しました。また、就業規則の改定による変更について、「分かり易い給与体系に改善する必要性があったことは否定できないが、旧給与体系における時間単価を労働契約法37条等が定める方法により算定した場合には最低賃金法違反の問題は発生せず、この点で新給与体系に変更する必要性があったとは認められない。そして、新給与体系に変更することによる従業員の不利益の内容及び程度は前記3で検討したとおり、時間単価が旧給与体系に比して約あり、新給与体系の変更に関する説明会は実施されているものの、原告らにおいて当該不利益の内容及び程度を十分に把握し得るだけの情報提供が行われたとは認め難い」と指摘し、就業規則の変更による条件変更も否定しました。本裁判例では、説明会、口頭または書面にエルダー知っておきたい労働法A&Q69%から約81%の幅で減縮するというもので43

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