2025.44―まさに50代での“越境学習”ですね。当時は、どんなことを心がけて学んでいたのでしょうか。日高 社外での交流が増えるにつれて、講演の機会がすごく増えました。「少し話をしてもらえないか」と誘いを受けたら、極力断らずに参加しました。それまで学術分野で教育業務を担当してきたので、説明会や講演会など人前で話すことに抵抗感はもともとありませんでしたし、議論することにも慣れていました。不安や怖さがないのは、これまでのキャリアの蓄積があったからだと思います。講演をきっかけに次の講演の機会も生まれますし、パネリストの重鎮の先生方など、知合いも増えます。社外の活動も厭いとわず、頼まれたことは断らないという姿勢は、50代になってもとても重要なことだと思います。―そうした活動の成果の一つが、大阪大学の教授就任につながるのですね。あらためてふり返り、50代に積み重ねておくべき経験とは何でしょうか。日高 定年の60歳になっても後任が決まらなかったこともあり、半年間だけダイバーシティ推進室に勤務し、その後は大阪に戻り、新たな自分の道を探そうと考えていました。社外の多くの友人にも半年後に大阪に帰ることを伝えていたところ、噂を聞いた知人から関西の私立大学での非常勤講師のお話をいただきました。大阪大学の仕事も知人の紹介で、大学の理事と面談し、道がひらけたという経緯があります。 あらためてふり返ると、自分の関心領域がどこにあるのかを理解し、そこに向けて勉強し知見を深めることが大事だと思います。そして人とかかわること。いろいろな人との出会いが何かを生む可能性を秘めています。人にかかわると「長くつき合わないといけない」と思いがちですが、50歳を過ぎたら好きな人だけとかかわればよいのです。薄くてもよいので、つながりを持っていれば次に進めるきっかけになると思います。―50代の人が新たなキャリアに目覚め、60代以降のキャリア形成に取り組んでいくために企業ができることは何でしょうか。日高 50代の比較的早いうちにキャリア研修などで気づきの機会を与えることです。帝人では、50代前半に役職に関係なく2日間かけてキャリア研修を実施しており、私も研修を担当していました。1回30人程度のメンバーをグループに分け、お互いに幼いころにやりたかったことのふり返りから始まり、最終的に自分の10年後、20年後のキャリアマップを描き、そのマップをもとにキャリアカウンセリングを行います。研修プログラムをつくりながら、私自身もキャリアをふり返る機会になり、進むべき道が決まりました。 こうした研修は、55歳では少し遅すぎます。女性も男性も含めて50代の早い時期に研修を実施し、自分の進むべき方向性がある程度決まったら、仕事をしながら勉強し、スキルを磨いていくなど準備を始めるほうがよいでしょう。役職を降りたら時間にも余裕ができます。昔と違い、いまは夜でも学校など勉強ができる場所はたくさんあります。60歳前に準備し、新しいスタートを切るのが理想的だと思います。(インタビュー/溝上憲文 撮影/安田美紀)キャリアのふり返りは50代の前半で自分の方向性を決めたらそのための準備を大阪大学 ダイバーシティ&インクルージョンセンター 招へい教授日高 乃里子さん
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