2025.462極細の筆で絵を描くように修整する。元の写真にインクを馴染ませながら、輪郭をはっきりさせるとともに、よりよい表情に再現するのがポイントだの理由は、2代目の坪井幸子さんが手がける和装での撮影だ。婚礼写真を撮影する会社に勤めていた経験を活かし、着物姿を美しく写真に収めることができる。特にむずかしいとされるのが、女性が婚礼衣装を着て座った状態での撮影だ。座っても着物が乱れないように、重しなどを使って整える必要がある。それができる写真師はいまでは少なく、SNSを見て海外から訪れるカップルも多いそうだ。そしてもう一つ、坪井さんの特筆すべき技術に「スポッティング」がある。この技術が特に評価され、2021(令和3)年度「かわさきマイスター」に認定されている。筆を使った修整により面影をきれいに再現スポッティングとは、筆とインクを使って写真に修整を施すこと。坪井さんは極細の筆を使い、絵を描くように修整し、人物の表情をきれいに整える。シワを消すことはもちろんのこと、つぶった目を修整して“開かせる”こともできる。パソコン上での修整が主流になっている現在でも、坪井さんのスポッティング技術が求められることがある。特に依頼が多いのが遺影用の写真だ。古い写真や小さな写真を拡大して使うことが多く、輪郭をはっきりさせるためには、パソコン上で修整するよりも、写真に直接描いたほうがきれいに仕上がる場合があるという。「例えば、黒目の部分をよく見ると、黒いのは中心部だけで周囲はやや茶色だったりします。また、少し口角を上げて表情を和らげることもあります。そういう微細な修整はパソコンよりも筆を使ったほうがやりやすいですし、より自然な修整ができます」スポッティングに興味を持ったのは10代のころ。家業を手伝うなかで、独学で修整した写真が喜ばれたことがうれしかったという。その「お客さまの要望をうかがったうえで修整するのが基本です。根気のいる仕事ですが、お客さまに喜んでいただけるのが、何よりの喜びです」
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