エルダー2025年4月号
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エルダー63の息子も大学で写真技術を学んでいる。麻衣子さんはこう話す。「息子と一緒に、母が手がけた遺影写真の納品に行ったことがあります。そのときに、お客さまがその遺影を見て泣いて喜ばれて、玄関から見える場所に飾っていました。その様子をみて『おばあちゃんの仕事って喜ばれる仕事なんだね』と感動した体験が、息子が写真の道を選ぶきっかけになりました」坪井さんは数年前に背中を疲労骨折し、一時は寝たきりの状態だった。その後のリハビリで、現在は杖をついて歩けるまでに回復。ふだんはスタジオで撮影の監修などを行っている。和装での撮影やスポッティングでは、いまも坪井さんの技術が欠かせない。その技術をゆくゆくは娘や孫に引き継ぐつもりだが、自分自身も「手の動くかぎりやり続けたい」と話してくれた。有限会社三陽会館 サンヨーフォトスタジオTEL:044(222)4473https://3youkaikan.sakura.ne.jp(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)後、婚礼写真を撮影する会社で働くなかでその技術が認められ、他社からも依頼されるようになった。フィルムが使われていたころは、ネガの修整も手がけた。ネガにニスを塗り、顔のしわなどを鉛筆の芯で消していく。その細かい仕事ぶりを評価し、遠方から写真修整を依頼する顧客も多かったそうだ。「いろいろな修整を頼まれるなかで、どうすればよりよくできるだろうと試行錯誤を重ねてきました」使用するインクについても、修整して乾いたときだけでなく、時間が経っても変色しにくいインクを探し求めてきた。長年愛用してきたドイツ製のインクが製造中止になると、入手しやすい画材で代用できる方法を編み出した。お客さまに喜ばれる技術を子や孫へ引き継ぐ現在、写真館は娘の麻ま衣い子こさん夫婦が経営している。麻衣子さん専用の写真修整インクを用い、色味を写真に合わせて調整しながら修整を行う。写真に馴染みやすく、変色しにくいインクを一貫して追求してきた記念写真を撮影した人へのサービスとして、写真をアルバムに綴じて進呈している。家族の成長とともにアルバムが何冊にもなる常連の顧客も多いフォトスタジオのある三陽会館ビル。川崎駅にほど近い繁華街にある(写真提供:有限会社三陽会館 サンヨーフォトスタジオ)記念写真や証明写真の撮影では、撮影の技術に加えて、被写体の姿勢や表情、身だしなみに気を配ることも大切な要素。撮影前にベテランの視点でチェックする遺影に修整を加える前(左)と後の写真(右)。元の写真は爪の大きさほどのサイズ。より明るい表情になっている2021年度に受賞した「かわさきマイスター」の楯。横の写真は、若いころの坪井さん vol.350

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