エルダー2025年5月号
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2025.538予防のことで、ストレスなどが原因でメンタルヘルスが悪くなって体調を崩す可能性があることを前提にして、その原因を突き止め、和らげたり、対処法を身につけさせることです。一方、プロモーションは、メンタルヘルスについて意識や関心を高め、行動を起こしやすくすることで、ポジティブ・メンタルヘルス(喜び、楽しみ、充実感など)を強化し、ネガティブな反すう(嫌なこと、ストレスになることばかりに目を向けて大きくさせる)を和らげることにつなげます。(1)プリベンション(予防):ストレスマネジメント予防をになうストレス対処は、一般にストレス・マネジメント(ストレスの自己管理法)と呼ばれています※4。ストレス・マネジメントでは、自分に立ちはだかるストレスを特定し、和らげたりするために以下の五つの対処法が考えられます。①認知的方略:物事を合理的に考え、楽観的になり、気晴らしをする。②対処資源の増強:能力、体力を増強し、よい人間関係を構築する。③リラクセーションまたはアクティベーション:緊張を解く(消化)、あるいはからだを動かす(昇華)。④臨床的処置:専門機関を受診・通院し、治療を受ける。⑤一時的避難:しばらく様子を見る、時間をおく。(2)ポジティブ・メンタルヘルスの強化:メンタルヘルス・プロモーションメンタルヘルス不調を起こすことを前提にして予防することとは別に、ポジティブなメンタルヘルスをいかにつくっていくかは、高齢社員のこころを守るうえで重要な課題です。欧米諸国では、専門的なメンタルヘルス・サービスにおいて精神疾患・障害を予防し、また治療を試みている一方で、ポジティブ・メンタルヘルスの強化を目的とする行動を積極的に奨励しています。これらの試みは、共通して、ネガティブ側面の低減に焦点を絞るのではなく、ポジティブ・メンタルヘルスの強化によってメンタルヘルス問題の予防をとらえている点が特徴です。高齢社員がメンタルヘルス不調に高齢社員がメンタルヘルス不調にならないために推奨する活動ならないために推奨する活動3ここからは、高齢社員のメンタルヘルス不調を予防する方法について解説していきます。働く人たちにとって、職場に心の問題が存在することをだれもが知っています。しかし、自分に何もなければ「人ごと」と思うだけです。多くの人がメンタルヘルスの職場研修に参加しているのですが、予防の観点が希薄で知識が実生活に活かされておらず、自覚症状がなければ何の行動もとらないのが実情です。周りが気がつき始め、またご本人に自覚症状が出てきたときには、すでに深みにはまっているものです。そうなれば、専門の病院や専門家に治療を行ってもらう対症療法に任せることになります。ここでも職場復帰が思うようにいかない場合は、優秀な人材を失うことになってしまいます。職場で行うメンタルヘルス研修では、早期発見・早期対応が中心で、具体的な一次予防対策については触れられていません。本稿で紹介するメンタルヘルス不調への対策は、まず日ごろからストレス・マネジメントと呼ばれる予防(プリベンション)を生活のなかに取り込むこと、そしてポジティブ・メンタルヘルスの強化(プロモーション)を行うことです※2※3。プリベンション(予防)とは、事前予防や一次※4 Matheny,K.B.,Aycock,D.W.,&McCarthy,C.J.(1993).Stressinschool-agedchildrenandyouth.EducationalPsychologyReview,5,109-134.※5 竹中晃二・富永良喜共編(2011).日常生活・災害ストレスマネジメント教育―教師とカウンセラーのためのガイドブック―サンライフ企画ISBN978-4-904011-37-9C2047図表2 こころのABC活動※筆者作成具体的な例A…Act からだ、こころ、そして人とも活動的になる好きな音楽を聴く、好きな本を読む、積極的に外出する、友人とおしゃべりする、家族と今日のできごとを話す などB…Belong 趣味の会、食事会などの集まりに参加する職場の行事に積極的に参加する、地域で活動する、健康教室に参加する、フィットネスクラブに加入する などC…Challenge さまざまなことに挑戦する苦手な仕事を引き受ける、友人の相談に乗る、ボランティア活動に参加する、初めての楽器を習い始める など

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