エルダー2025年5月号
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エルダー51株式会社Works Human Intelligence WHI総研 シニアマネージャー 伊い藤とう 裕ひろ之ゆき2021(令和3)年4月の高年齢者雇用安定法の改正から3年が経過し、2022年の前回調査と比較して高年齢者雇用継続に向けた労働環境の整備、シニア層の活用意識が全体的に進捗していることがうかがえる結果となりました。 例えば図表5(50ページ)にある「シニア層の活用に向けて、貴社の方針について教えてください」という質問の結果では、「シニア層は積極的に継続雇用、活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい」という回答が大幅に増加しており、その進展が示されています。 この背景の一つとして、コロナ禍以降に顕著となっている全国的な人手不足の傾向があるとも考えられます。正社員・非正社員ともに求人数が増加する状況で、年齢にかかわらず企業内の人材を活用していくことが急務となっています。 シニア層については、一律の制度や運用ではなく、個人の働き方や能力、スキルに応じた労働条件の選択肢を増やし、そのうえでほかの従業員と同様に、働き方や成果に応じた報酬制度や評価制度を適用する動きが広がっていることが調査から見受けられました。ただし、これまで定年延長や継続雇用の課題の一つであった「要員の余剰」が人手不足傾向もあって結果的に解消されつつある一方、「対象者のモチベーション」という課題は依然として残っています。モチベーション向上を目ざした報酬面の改善については、全国的な賃上げ傾向によって一律にはとりづらく、昇降給の導入や生活給の廃止など、個人ごとにメリハリをつけた対応が求められることになるでしょう。 報酬面以外の対策として有効なのが、定年年齢以前までのキャリア支援やスキルアップ支援です。 現在、キャリアやスキルに関する支援は若手層やマネジメント着任前後に偏っており、中高年層に対する研修やスキルアップの機会は不足していることが多いです。中高年層がキャリアを再評価する機会を早期に提供することが、シニア層のやりがいや満足感を高め、後々のモチベーション維持につながると考えられます。また、今回の調査では役職定年についても調査を行いました。役職定年を導入している企業が3分の1存在する一方、廃止した、または廃解 説止を検討している企業も20%程度存在しています。導入している企業の半数以上が、年齢による自動的なポストオフには至っていないことがわかりました。 役職定年の目的である管理職層の循環や世代の適正化に対して、管理職の人材不足や業務負荷の増大といった課題が多いため、スムーズに進行できていないことがうかがえます。 少子高齢化という社会的な構造変化と、それにともなう人手不足のなかで、シニア層の活用は多くの企業にとって避けては通れない人事課題となるでしょう。

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