エルダー2025年6月号
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エルダー9特集介護離職防止に向けてと自分の心身の環境の最適化を図りながら生活をすることです。仕事と介護の両立の困難は、環境の最適化ができていないために起こります。例えば、「介護サービスを拒否する親御さんに苦労している」、「障害のあるお子さんが大きくなるにつれ、身体的にしんどくなっている」、「施設に預けたいが条件に満たないから、在宅で介護するしかない」などの声が届きます。また「職場に理解がない」、「夜勤を免除してもらうのが心苦しい」、「フルタイムで働けないから昇格試験を見送りました」など、職場に関する声も届きます。「介護は家族がやるしかない」、「介護は家族の問題」、「本人が嫌がっているのだから、自分が世話をするしかない」など、これらの声の根っこには何があるのでしょうか。それは“介護者の不安”だと思っています。一見、「自分が直接または間接的にかかわること」、「要介護者の住まいはいままで住み続けているところ」への執着があるように思えます。これに対し、「家族はプロにまかせましょう」、「施設に預けることは親不孝ではありません」というマインドセットや、介護リテラシーなどといった方法で解決することも、場当たり的には必要です。しかしながら、仕事と介護の両立と抱えている状況のもと、家族の介護が始まったタイミングで離職を選択したパターンです。介護経験者の多くは、「介護」という事象をきっかけに否応なしに自分の人生に向き合ってきました。そのなかで「会社を辞められない」と強く認識した方もいれば、「違うキャリアを歩みたい」、「介護に専念したい」と認識した方もいます。介護離職は離職の一つの理由ですから、職業選択の自由を考えても、完全にゼロにすることはむずかしいです。しかしながら、家族の介護に直面したことをきっかけとした「介護離職」は企業努力によって減らせるのではないかと考えます。働く介護者の働く介護者の困難の根っこにあること困難の根っこにあること55介護離職を悪としないでください。そして介護離職は企業の介護離職防止対策の失敗でもありません。離職を悪としたら職業選択の自由を奪うことになってしまいます。また、現実的にいえば、いまの日本の家族介護は、家族、福祉、企業、地域など「だれかがちょっと無理をして」成り立っています。むしろ、だれかがちょっと無理をしないと成り立たないのです。だから仕事と介護の両立という生活は綱渡りなのです。仕事と介護の両立とは、家庭環境と職場環境いう綱渡りの生活をしている従業員の心の根っこにある「不安」の解消には至らないのです。先にも伝えたように、家族の介護という事象は、それを通して自分のことを顧みるきっかけとなっていることが多いのです。自分には何ができるのか、どうしたらよいのか、と、働く介護者の多くは、要介護者の生活支援を通して自分の将来の姿が見えないことに不安を感じているのです。選択肢が見えないと同時に、取捨選択に自信がないともいえます。「これでよかったんだ」という想いは、きっと介護が終わってから思うことなのでしょう。改正育児・介護休業法の改正育児・介護休業法の意図するところ意図するところ66介護離職防止対策と仕事と介護の両立支援の対象者が異なることは理解いただいたかと思います。介護離職防止対策は介護に直面している、していないは関係ないのですが、これに対する理解促進をしている時間的猶予がなくなりました。そこで、国は法律をもって企業へ介護離職防止対策に取り組むようにしました。それが2024年の育児・介護休業法改正です。介護離職防止のための個別の周知・意向確認、雇用環境整備などの措置が事業主の義務となります。こ

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