エルダー2025年6月号
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高齢者に聞く第 回2025.634つらい経験から学んだ福祉の心私は茨城県の牛うし久く市に生まれ、高校卒業まで牛久で過ごしました。実家は農家で、家の中に囲炉裏があり、私は赤ん坊のころその囲炉裏に落ちてしまい、顔にやけどを負いました。父がバイクで病院に運んでくれたそうです。いまの医療なら跡が残らない治療も可能だったでしょうが、目元に大きなしみが残りました。高校を卒業して就職しましたが、19歳で結婚、すぐに仕事を辞めました。結婚が人より早かったのは、やけどの跡が残る自分に「一緒に人生を歩もう」といってくれた人の存在が大きかったと思っています。そうして左官業の夫との新婚生活がスタートしましたが、私の成人式の前日に、夫が運転する車に同乗して交通事故に遭いました。夫婦一緒にしばらく入院、幸い大事には至りませんでした。ただ、成人式に出席できなかったことはいまでも悔いが残ります。23歳で長女が生まれ、3年後に長男、さらに3年後に次男が誕生して、子育てに専念する日々が続きました。育児の手が少し離れたころ知人が「老人ホームで働かないか」とすすめてくれました。まったく知らない世界なのに福祉の仕事に興味を覚えたのは、つらいできごとのなかでもだれかに助けてもらっていまの自分があることへの感謝が心のどこかにあったような気がします。顔写真を撮ることに少しためらいながらも快く応じてくれた鹿島田さん。「過酷なできごとに遭遇してきたからこそ心のこもった介護ができるのでは」と問うと、「仕事が大好きなだけです」と笑顔で応じた。気がつけば介護の世界に最初に働いた老人ホームは人間関係で悩んで早々に退職しました。ただ、介護の仕事は自分に合っていると思い、求人情報で介護施設を探すなかで出会ったのが、千葉県佐さ倉くら市にある特別養護老人ホーム「白はく翠すい園えん(現・佐倉白翠園)」でした。当時36歳でしたが、幸い正規職員として採用されました。「白翠園」は1989(平成元)年に開所以来、地域とともに生きることを基本理念としており、その存在は知っていましたので、職員として採用されたときはうれしかったです。老人ホームで少し働いたことがある程度で、介護の世界は初心者も同然でしたが、仕事をするなかで学ばせてもらう日々でした。また、何度も試験に落ちながら介護福祉士の資格を取得でき、少しは成長できたかなと思っています。「白翠園」を運営する社会福祉法人誠せい友ゆう会かい※ 瑞宝双光章……国家または公共に対し功労があり、公務等に長年にわたり従事し、成績をあげた方に授与される勲章社会福祉法人誠友会特別養護老人ホーム 栄白翠園介護職員鹿か島しま田だ 直なお子こさん 鹿島田直子さん(69歳)は、介護職の道一筋に33年間歩き続けてきた。施設の利用者に寄り添った介護サービスの実践に対し、昨年には、瑞ずい宝ほう双そう光こう章しょう※を受章した。介護の現場でいつも笑顔を絶やさない鹿島田さんが、生涯現役で 働くことの喜びを語る。105

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