エルダー2025年6月号
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高齢者に聞くエルダー35は2001年に千葉県印いん旛ば郡ぐん栄さかえ町まちに特別養護老人ホーム「栄さかえ白はく翠すい園えん」を開所し、私は異動で新天地に移りました。利根川流域にある栄町は水田地帯が広がり、施設の近くではウグイスの鳴き声も聞こえてきます。自然豊かな町で大好きな仕事ができる毎日に感謝しています。早いもので介護の仕事に就いて33年が経ちました。「白翠園」という名前は、雨上がりの田園風景をうたった中国の詩にちなんだとのこと。地域との共生を基本理念に掲げ、6年ほど前からは積極的に外国人技能実習生を受け入れ、施設の敷地内には実習生の住居も整備されている。心に寄り添う介護を目ざして介護の仕事というのは、食事や排せつ、入浴など生活のあらゆる場面で利用者さんとかかわりますから、つい、職員の感情が出てしまうことがあります。私も若いころは、ときどき口調が厳しくなったものでした。特に排せつなどでうまくいかなくて私たちがいらいらすると利用者さんも心を閉ざしてしまいがちです。やさしく話しかけると利用者さんも笑顔になることが、長年経験を積むなかでようやくわかるようになりました。年上の利用者さんには人生の先輩に対する尊敬を忘れないこと、逆に私よりも若い利用者さんには、人としての尊厳を大切にすることを肝に銘じてきました。利用者さんは職員のことをしっかり見ています。休みが続くと、「病気でもしていたの」と心配してくれます。最近は、休みが続くときは対話ができる人たちには事前にきちんと伝えています。重い認知症の人にも、伝わらなくてもよいから同じように必ず声かけをしています。理解できないように見える人たちも、本当はちゃんとわかっているような気がしてなりません。ただ、忙しいときはついつい対応が雑になってしまい、反省の毎日です。いまスリランカから4人の実習生が来ていますが、彼女たちのていねいな仕事ぶりに学ぶことが多いです。母国を離れて働いているからこそ、他人の気持ちが身に染みてわかるのかもしれません。どんなときも前を向いて現在の私は常勤パートで、週5日、自宅から車で15分かけて通っています。36歳で正規職員として採用され、60歳から65歳までは嘱託職員で、65歳から夜勤のないパートになりました。いまは早番と日勤遅番の勤務です。早番は朝6時30分からですが、早めに家を出るようにしています。介護の仕事は体力が必要なので規則正しい生活を心がけています。最近は男性職員が増えて入浴介助などの仕事が少し楽になりました。ただ、短期間で離職する人も多く、介護現場は慢性的な人材不足が続いています。若い人たちが意欲的に働けるような環境が整備されればよいなと、思います。昨年、瑞宝双光章をいただいたとき、あらためて長い間介護現場で働き続けてこられたことに感謝しました。何よりも利用者さんとの出会いを大切にしながら、楽しく働くことを目ざしてきました。お誕生会の担当だったときは、毎月の誕生者ポスターに切り絵を添えていました。係ではないいまも、季節感のある切り絵を添えることを楽しんでいます。「白翠園」は、お誕生会をはじめ利用者さんと一緒に職員も楽しめるイベントが盛りだくさんで、利用者さんの笑顔に支えられています。私は赤ちゃんのころに顔にやけどを負い、成人式の前日に自動車事故に遭いました。それだけを話すと何か不幸の連続の人生のようですが、3人の子どもに恵まれました。そして小学生の孫に加え、最近、息子に女の子が生まれました。小さな命の誕生が、生きるということの大切さを教えてくれました。介護という仕事も、思えば命にたずさわる仕事です。命の大切さに気づかされるこの場所で、もう少しがんばってみようかと、明日もまた元気に職場へ向かいます。

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