エルダー2025年6月号
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ます。定年後の労働条件は、労働条件の一種であることから義務的団体交渉事項として対象になるところ、最近では、定年後の労働条件について、外部の労働組合に加入して団体交渉を求められるケースも出てきています。もともと、社内に労働組合がない場合には、自社で団体交渉に対応することに慣れておらず、前述した団体交渉への誠実交渉義務なども知らないまま対応をしてしまうおそれもあります。まずは、労働組合からは、組合員の加入通知と団体交渉の申入書が届き、団体交渉の申入事項とあわせて団体交渉実施時期に関して、期限を区切って回答を求められることが一般的ですので、労働組合からの書面が届いたときには、自社で対応できるか否か、できない場合には専門家への相談などを検討することが重要です。定年後の労働条件の交渉と再雇用拒絶2労働組合からの団体交渉事項として、ある労働者(もしくは定年を迎える労働者全般について)の定年後の労働条件が対象となることがあります。使用者としては、同一労働同一賃金の観点もふまえつつ、なぜ定年後の労働者の労働条件が切り下げられるのかについて、説明を求められることが多いでしょう。ここで、定年後に継続雇用される労働者の労働条件について、定年後に継続雇用された労働者であることのみをもって通常の労働者より待遇を下げることは不適切であることに注意が必要です。業務の内容、責任の程度、配置の変更などさまざまな事情を考慮して通常の労働者との相違が不合理なものでなければ差が生じることは問題ありませんが均衡のとれたものとする必要があります。ただ、これらに注意して定年後の労働条件を提示し誠実な交渉を尽くしていたとしても、労働組合(またはその組合員)が希望する内容では合意に至らず結論に齟齬があれば、労働組合による労働委員会への救済申立てに発展するケースもあります。裁判例の紹介3団体交渉の経緯もふまえて、再雇用を拒絶するというケースについては、相当に慎重な判断を要すると思われますので、参考となる過去の裁判例を紹介したいと思います(東京地裁令和6年3月27日判決)。事案としては、定年後再雇用対象となっていた労働者について、労働組合を通じた団体交渉を継続していたところ、不適切な行動が度重なっていたことから、契約を終了するために定年後再雇用を更新しない旨を通知したという事案です。不適切な行動の内容が重要なところですが、会社が指示したシステム連携に必要なシステム構築の委託先と、当該システム連携で協力が必要な倉庫業者との打合せや具体的な業務遂行を遅々として進行させず、最終的には信用を喪失させて倉庫の保管契約を解除されるに至ったことや、日常的な対応として報告するように指示したことを無視して返答すらせず、改善も見られなかったという状況でした。特殊な背景事情としては、移管対象のシステムについて、労働者本人が構築に関与しており、仕組みや操作方法のマニュアルもない状態で、労働者本人の協力がシステム移管に必要だったという点もありました。具体的には、システムの委託先と倉庫業者との打合せにおいて、当該労働者が①移管に関する必要性が社内で共有されておらず混乱していること、②当面の間は現行システムを利用したいこと、③会社とはこれまで労働条件に関して何度か裁判になったことや現在も裁判中であることなど会社の意向とは異なる内容を伝えた結果、システム会社の担当者から当該労働者がやりたくないといっているようにしか聞こえず非常に困っている、このままでは進められないと返答され、その後、労働組合の執行委員長からこれらの企業宛に労働委員会で審理されている事件の速記録を送付されるなどした結果、倉庫の保管契約などエルダー41知っておきたい労働法A&Q

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