■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー47同資料に一人あたり労働生産性比較もありますが、OECD加盟38カ国中32位という状況で、日本の労働生産性は指摘の通り“低い”といえます。労働分配率は人件費への還元度合いを指標化したもの次に、労働分配率についてみていきましょう。労働分配率は、「付加価値額に占める人件費の割合」で、労働によって生み出された価値が従業員にどの程度還元されているかを示したものです。ここでの人件費には、従業員の基本的な賃金である給与・賞与のほか、退職金や法定福利費(社会保険料、労働保険料等)、福利厚生費(健康診断費用、慶弔見舞金、懇親会費など会社が独自に取り組む福利厚生の費用)、教育研修費、役員報酬など従業員を雇用するにあたりかかる費用のすべてが含まれます。算式で示すと、「労働分配率=人件費÷付加価値額」で示すことができますが、労働分配率の見方については、労働生産性のように「高い状態=望ましい状態」には必ずしもならない点に注意が必要です。労働分配率が高い場合には、人件費の還元度合いが高い(望ましい)と付加価値額が小さい(望ましくない)の両方の状況が考えられるからです。同様に、労働分配率が低い場合には、付加価値額が大きい(望ましい)と人件費が抑制されている(望ましくない)の両方の状況が考えられます。これは、企業規模別に比較すると顕著で、統計上の賃金水準は小規模企業や中規模企業に比べて大規模企業が高い※5にもかかわらず、図表にあるように労働分配率は大規模企業がもっとも低い数値であることからもみられます。これは、大企業の付加価値額がもっとも高いことに起因しています。しかし、『令和5年版労働経済の分析』(厚生労働省)に、「1996~2000年では諸外国と比べても比較的高い水準であった我が国の労働分配率は、ここ20年間、一貫して低下傾向で推移し、2016~2020年には、主要国で最も低くなっている」との記載がある通り、他国と比べて労働生産性が低く生み出される付加価値額が小さいにもかかわらず労働分配率も低いという実態があります。このことから、近年の賃上げ議論のなかで出てくる、企業の従業員に対する人件費の還元は十分ではないという指摘は十分妥当性があると考えられます。一方、労働生産性が低いまま労働分配率を上昇させるだけでは企業経営の面からいつか限界が来ます。労働分配率を無理のない水準に保ちつつ、人件費の還元を増やすためには、日本が遅れているといわれている収益性の高い事業へのシフトやITを活用した業務プロセスの効率化、働き方改革による労働時間の短縮化などの労働生産性向上の取組みが不可欠になります。次回は、「組織」について取り上げます。※5 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」からも小規模企業・中規模企業に比べ、大規模企業の賃金が高いことが確認できる出典:中小企業庁「2022年版中小企業白書」図表 労働分配率の推移資料:財務省「法人企業統計調査年報」(注)1.ここでいう大企業とは資本金10億円以上、中規模企業とは資本金1千万円以上1億円未満、小規模企業とは資本金1千万円未満。2.ここでいう労働分配率とは付加価値額に占める人件費とする。3.付加価値額=営業純益(営業利益-支払利息等)+人件費(役員給与+役員賞与+従業員給与+従業員賞与+福利厚生費)+支払利息等+動産・不動産賃借料+租税公課。4.金融業、保険業は含まれていない。86.5%86.5%80.0%80.0%57.6%57.6%1008060400708091011121314151617181920(年度)(%)大企業中規模企業小規模企業
元のページ ../index.html#49