エルダー2025年6月号
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エルダー51特別寄稿事例にみる大企業の高齢社員(60歳前半層)の戦力化の現状と課題事例にみる大企業の高齢社員(60歳前半層)の戦力化の現状と課題~業界における代表的な大企業10社に対するヒアリング調査結果より~~業界における代表的な大企業10社に対するヒアリング調査結果より~ションの双方を通して、当事者のニーズを労使双方が納得する形で制度や取組みに反映させ、活躍と処遇がセットとなった仕組みをつくっていくことが、企業にとって今後ますます重要となる。  第4に、高齢期の活躍を見すえた自律的なキャリアづくり・能力開発である。企業が社員に期待するキャリアや役割を伝えるため、たとえば10年刻みなどでキャリア研修やキャリア面談を行っていくことが考えられる。それにより、企業と社員の双方にとって、スムーズなマッチングが図られることが期待できる。そうしたなかで、現状では、高齢期の活躍を見すえたキャリアづくりを考える機会については中高年期以降から設けている企業が多いが、今後はより多くの企業で、20代や30代など早期からの自律的なキャリアづくりに取り組ませることが考えられる。自律的なキャリアづくりの手段として、社員が自社のなかだけでなく社外での活躍の場を広げることについても、企業として支援していくことが考えられる。とが課題となっている。それを解決するためには、定年後ないしは高齢期に期待する仕事と役割を明確化し、その働きぶりを評価し、それに見合った納得感の得られる報酬を再セットすることが重要である。第3に、高齢社員とのコミュニケーションである。企業は社員に対して、50代までは個別にキャリア研修をしたり、今後長く働くためにはどうしたらよいかについて、個人と企業の間でコミュニケーションをとるなどしている。しかし、ヒアリング結果からは、60歳以降についてはそうしたコミュニケーションの機会が、まだ整備されていないように見受けられる。65歳以降の活躍を考えるうえでも、高齢社員のニーズをくみ上げすり合わせるような企業と高齢社員とのコミュニケーションが重要である。企業では雇用期間が長期化するのに合わせて高齢社員の「戦力化」を求める流れがあるが、一方、社員の側では、高齢期になるとワーク・ライフ・バランスをより重視するなど仕事以外に重きを置くようになる者も増加する。高齢社員の多様なニーズに対して、労使間で個別に対応する柔軟性が重要である。その実現に向け、労働組合を通じた集団的なコミュニケーションと、個別ニーズを聞きとるような個別的なコミュニケー以下の4点が重要になってくる。第1に、「これまでの定年=雇用の終了」という意味合いから「キャリアの節目としての定年制」へと定年制が変化していることを社員に理解してもらうことである。60歳を定年年齢とする企業においても、多くの者が60歳以降も継続して働いており、定年は退職の年齢ではなく、キャリアの節目となる年齢へと変化している。企業は定年前後で役割の見直しを求めることがあるが、現状では働く側にそのことがきちんと伝わっていない可能性がある。役割の見直しを求めるのであれば、企業はそのメッセージをしっかりと発信し、一方で働く側もそれを受けとめて自らの仕事やキャリアについて考える必要がある。第2に、仕事と報酬の再設定である。65歳までの雇用確保についてはほぼすべての企業で実施がなされており、ヒアリング調査の対象とした大企業においても65歳までの雇用確保は行われているが、定年後の(あるいは高齢期の)仕事と報酬の再設定については多くの企業で取組みの途上にある。定年後の処遇を下げない選択をした企業も一部みられたが、処遇は下げつつも従来よりも処遇の改善を図る企業が多くみられた。企業においては、高齢社員の人数が増えるなか、高齢社員の「戦力化」を図っていくこ【参考資料】三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社(2023)『生涯現役社会の実現に向けた調査研究事業報告書』(令和5年度厚生労働省委託)(https://www.mhlw.go.jp/content/001252845.pdf)

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