エルダー2025年6月号
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エルダー63いできたのが洋傘職人の育成だ。東京洋傘の伝統工芸士は10人に満たない。その技術を絶やさないために、「傘職人養成講座」で同社の伝統工芸士2人が講師となり、これまで50人近い職人を育てた。一定の成果を上げたことから講座は終了したが、いまでも希望者がいれば教えるという。「私自身も先生方から習ったように、技術の継承は自分の務めだと思っています。技術は基本を大事にしつつも、時代や環境の変化にあわせて工夫を重ねることが大切です。傘づくりも、ただ教わったとおりに続けるのではなく、世の中の変化にあわせて柔軟に進化させていく姿勢が求められます。特に、いまは使い捨ての時代ではありませんから、資源の大切さに配慮したものづくりができる職人が育ってほしいと願っています」株式会社市原TEL:03(3669)2061https://ichihara-1946.com(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)を、傘の下側にあたる面積の広い方から縫っていく関西縫いに対して、上部にあたる細い方から縫っていく方法で、仕上がりが美しいとされる。しかし、上から縫っていくと、後から縫う広い面がずれやすい。ずれないように生地をうまく調製しながらミシンをかけるのも、経験のなせる技といえる。技術の継承は「務め」と心得て後進の育成に尽力奥田さんは小学生のころから洋服をつくるほど手先が器用で、大学で被服を学んだ後は、ニットデザイナーとして活躍。1985年、家業である市原に入社した。当初は経理を担当していたが、もともと洋裁好きだったこともあり、自然と傘づくりへの興味を深めていく。さまざまな傘職人から技術を学び、そこに自身の経験やセンスを加えて腕を磨いてきた。そんな奥田さんが近年、力を注生地の裁断に用いる木型。生地によって伸縮の度合いが異なるため、市原では同じ骨を使う傘でも、生地の種類ごとに木型をつくって対応している三角形の生地を8枚縫いあわせると、傘のカバーができあがる。中心部分の中棒を通す穴の周囲を補強するための「天かがり」は手で縫いあわせている三角形に裁断した生地2枚を、チェーンステッチで縫いあわせる。その際、上の生地と下の生地で進み具合が異なるため、柄がずれやすい。そのため、二つの生地がずれないように生地を引っ張り調整しながら縫っていく生地裁断用のカッター。右は奥田さんが長年愛用してきた小刀。くり返し研いで刃が短くなっている市原がつくる洋傘には、甲州織の生地や天然木のハンドルなど、職人のこだわりが詰まっている(写真提供:株式会社市原) vol.352

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