エルダー23特集新任人事担当者のための高齢者雇用入門11加齢と労働災害加齢と労働災害一般的に、年齢を重ねると筋力や平衡機能の低下が起こり、筋肉や関節の痛みを感じやすくなったり、何もないところでつまずいてしまったりすることなどが多くなります。高齢労働者(60歳以上)の労働災害発生率は30代と比較して男性で2倍、女性で4倍となっており、年齢が上がるにつれて休業期間も長期化する傾向があります。22職場の環境改善職場の環境改善―腰痛予防の視点から――腰痛予防の視点から―高齢労働者に多い労働災害のひとつが腰痛です。腰痛は、重い荷物などを運ぶときだけではなく、マンガのようにデスクワーク主体の職場でも発生します。そのメカニズムは次の通りです。①座位姿勢は立位姿勢よりも腰にかかる圧力が高く、②座位姿勢を長く続けると、筋肉が持続的に緊張し、血流も悪くなり、③加えて、反り腰や猫背などの姿勢不良があると、腰にかかる負担や筋肉の緊張がさらに高まり、腰痛の発症につながります。対策としては、適切ないすを配置・導入するほかに、パソコンの作業環境の見直し(モニターの高さは目線のやや下になるように、キーボードやマウスは肘が90度になる範囲に設置するなど)や、デスクワーク時間内でのマイクロレスト(45分から1時間に1回程度は立ち上がって軽いストレッチを行うなど)の取組みが有効です。近年では、昇降式のオフィスデスクやスタンディングでの打ち合わせスペースなど、デスクワークに適した職場改善も増えています。なお、デスクワークにおける腰痛は、自覚症状としての訴えは多いのですが、労働災害申請・認定に至るケースが少ないため、その実態が過小評価されている可能性があることに留意しましょう。33職場の環境改善職場の環境改善―転倒防止の視点から――転倒防止の視点から―次に、転倒防止対策について考えてみましょう。デスクワークが中心のオフィス環境は一見安全に見えますが、段差や滑りやすい床、照度不足、配線の露出など転倒の原因となりうる要因が潜んでいます。具体的な対策としては、まずは段差を可能なかぎり解消し、その次に階段や段差部分には手すりを設置することが基本となります。また、作業エリアや通路の照度を十分に確保することで、足元の視認性を高め、つまずきや転倒のリスクを軽減することができます。加えて、床面に配線や凹凸が露出しないよう、コード類はケーブルカバーで固定するなど、つまずきの原因となる障害物の排除に努めましょう。44ハード・ソフト両面からの改善をハード・ソフト両面からの改善を前記のような物的対策(ハード面の対策)に加えて、転倒災害を含めた安全確保のためには社員一人ひとりの意識が何よりも重要になるので、年齢や職務に応じた安全教育を実施しましょう(ソフト面の対策)。高齢社員に対しては、歩行や姿勢に配慮した指導や体力保持をうながす取組みも効果的です。これらの対策を講じていても、腰痛の訴えや職場内での転倒事故が発生することがあるかもしれません。その場合は、ヒヤリハット報告やインシデントレポートの活用がきわめて重要です。これらは実際の重大事故には至らなかったが、危うく事故が起きそうになった事例を含めて、記録・共有する仕組みであり、職場内の潜在的な危険を早期に発見し、対策を講じることを可能にする重要な対策です。些細なできごとを含めて報告や検討の機会を設けることで、風通しのよい報告文化を醸成し、労働災害を未然に防ぐ職場改善へとつながっていきます。
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