エルダー2025年7月号
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2025.72特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長岡田邦夫さん律があります。企業は従業員の健康づくりの支援はしますが、健康状態が悪い人は取締役や管理職になれません。なぜなら管理職になったとたん心筋梗塞などで亡くなってしまうと、それまでの投資が無駄になるからです。 しかし日本では解雇権濫用法理があり、合理的理由なく辞めさせることはできませんし、入社してから退職まで雇用し、健康保険組合が疾病などを中心に健康をサポートしています。一方で、健康診断など莫大な健康管理費用を費やしているにもかかわらず、健康診断の有所見率は増加傾向にあり、「やりっぱなし・ほったらかしの健診」といわれることもあるように、投資に対してリターンを求めていないというおかしな状況でした。そこにメスを入れて健康の持つ事業性を経営者がしっかりと認識し「投資をしている以上リターンを求めるべきだ」というのが健康経営の最初の発想でした。そこで有識者が集まり、健診のあり方を含めた検討会を設置し、それを―働く人の健康を含む人的資本への関心が高まるなか、「健康経営」があらためて注目されています。日本で初めて健康経営を提唱したNPO法人健康経営研究会の設立の経緯と活動について教えてください。岡田 私たちは健康経営を「企業が従業員の健康を経営的視点でとらえ、戦略的に実践することで、経営面でも大きな成果を期待できる」と定義しています。健康経営の考え方はアメリカの「ヘルシーカンパニー」に由来します。米国の経営心理学者のロバート・ローゼンが1980年代に「健康な従業員こそが収益性の高い会社をつくる」というヘルシーカンパニーという考え方を掲げ、経営的視点から体系化しました。ローゼンは、健康な従業員はパフォーマンスも高いと主張し、不健康だと従業員の能力が発揮されないことから健康管理の重要性を指摘しています。その一方で、アメリカでは健康を害し、仕事ができない人を解雇できる法機に2006(平成18)年に健康経営研究会を設立しました。同年に「健康経営」という言葉の商標登録を行いNPO法人としての活動がスタートしました。活動当初は理事が活動費を出しあって、無償で健康経営のセミナーなどの普及啓発活動に取り組んできました。―当初はなかなか浸透しなかったということですが、いまでは経済産業省の「健康経営優良法人」の認定など、健康経営に対する企業の関心も高まっています。岡田 1995年に高齢社会対策基本法が制定され、「高齢化の進展の速度に比べて国民の意識や社会のシステムの対応は遅れている。早急に対応すべき課題は多岐にわたるが、残されている時間は極めて少ない」と危機感が表明されました。生産年齢人口が減少する一方で、高齢労働者は増加し、健康や体力に関する経営課題が顕在化することも予測されていました。労働者の健康が企業経営に及ぼす影響はますます深刻になるとの危惧から、当時の厚生省、労働省、通商産業省で議論が始まり、私も委員として議論に参加しました。ですが、私たちの啓発活動でセミナーを開催すると、中小企業からは「従業員も不足していないし、人手不足の心配はない」といわアメリカの「ヘルシーカンパニー」の発想をもとに日本独自の「健康経営」を提言

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