断をするにあたって、十分な情報提供または説明がなされていたか否かが重視されています。定年後の労働条件について2定年後の継続雇用制度においては、退職金が支給ずみであり、各種公的給付を受給可能な地位を持つこと、賃金について正社員と同様の性質が維持されるとはかぎらないことなどから、一定程度の減額が行われることがあります。他方で、人材確保および雇用維持の観点から条件を大きく変更せずに継続雇用を実施する場合もあります。このように、各社ごとに継続雇用の考え方が異なることから合併する2社において、継続雇用における労働条件が異なることはよくあることです。それでは、継続雇用の期間満了時の更新において、合併後の会社の基準に照らした継続雇用の条件(従前の労働条件を不利益に変更する内容を含む)を提示することは許されるのでしょうか。継続雇用の提示において、合理的な裁量の範囲内であれば、正社員と異なる労働条件の提示が許容されていますが、合併後の更新時にも同様の基準があてはまるのでしょうか。裁判例の紹介3経営悪化にともなう吸収合併により、消滅した会社に所属していた労働者を承継したところ、継続雇用の条件について、消滅した会社の労働条件が維持されるべきと主張され、会社が労働契約の更新を拒絶したという事案があります(東京高裁令和6年10月17日判決)。吸収合併にあたって半年以上前から、労働条件を吸収する会社の内容に合致させる旨を周知しており、吸収合併後に労働条件を統一することは賃金総額を減額することを目的としたものではなく、提示した労働条件が拒絶された以上、更新拒絶は有効であると主張する使用者に対して、労働者は4人という少数であり会社への影響が小さく、継続雇用制度の終了とともに解消されるものであることから労働条件の不統一による不利益はきわめて小さく、統一することの合理性が認められないとして反論していました。『エルダー』2025年1月号の本連載(第79回)で、第一審である東京地裁令和6年4月25日判決を紹介しましたが、その控訴審判決になります。第一審においては、合理的な期待を有していたことにより労働契約法第19条により保護されるのは「同一」の労働条件での更新が期待されているという限定的な解釈をすることで、雇止めを適法と判断していましたが、一般的な解釈とは異なる内容でした。控訴審では、従前の労働条件から変更された内容であっても更新されることを期待する合理的な理由がある場合には、解雇と同様に「客観的かつ合理的な理由」および「社会通念上の相当性」が雇止めに必要とされるとして、第一審のような限定的な解釈をすることなく、継続雇用であり65歳まで労働者が更新されることを期待する合理的な理由があると判断しました。更新手続きの経緯は、合併後の会社から従前の労働条件を下回る内容で提示をしたところ、これについては労働者が拒絶をしていたという状況でした。このような状況において、裁判所は会社からの提案が合理性を有していたか否かを含めて、雇止めに「客観的かつ合理的な理由」および「社会通念上の相当性」が認められるかを判断することとしました。そのため、会社が提案した内容の合理性が問題となりましたが、会社からは、4種類の内容で更新後の労働条件を提示しており、これらのなかから労働者が選択可能な状況にしており、会社からの各提案の合理性についても、消滅前の会社でも継続雇用中に条件が下がった前例があったこと、赤字経営が続いており債務超過状態にあったことから吸収合併に至ったものであり、その手続きにおいて従業員向けの説明会が実施されていたこと、説明会エルダー49知っておきたい労働法A&Q
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