エルダー2025年7月号
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では吸収した会社における継続雇用制度の内容についてイントラネットに掲載する方法で周知していたという事情がありました。そのため、吸収合併されるのであれば労働条件が不利益に変更される提案がされる可能性が認識されていたものと判断され、期間満了の1カ月前には具体的な労働条件が提示されていたことから、労働契約が同一内容で更新されると期待する合理的な理由はないとされています。また、吸収した会社の定年後再雇用者と同一の労働条件とする必要性は高いと認め、会社による提案の合理性が肯定されることを理由として、雇止めに必要な客観的に合理的な理由と社会通念上の相当性が認められると判断し、第一審と同様の結論を維持しました。合併手続きを経て、労働条件を統一することについては、二つの会社の労働者の不公平感が課題となることが多いですが、控訴審では「移籍する同種労働者の賃金水準は当然に関心事となる」ことを前提に「従前から雇用する労働者に秘匿しておくことは困難であり、かつ不誠実でもあって、相当とはいえない」と述べ、合併した企業の課題として認めています。合併後の更新においては、従前と同一の労働条件ではない提案を受けている場合でも、提案された内容が合理的である場合にこれに応じないと雇用が維持されないこともありえますので、注意が必要です。男女雇用機会均等法1男女雇用機会均等法(以下、「均等法」)は、性別を直接の理由とした差別的な取扱いを禁止しており(均等法第5条・6条、同施行規則第1条4号、直接差別の禁止)、また、性別を直接の理由とするものでなくとも、「……男性及び女性の比率その他の事情を勘案して実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置……については、……合理的な理由がある場合でなければ、これを講じてはならない」として、間接的な差別も禁止しています(均等法第7条、同施行規則第2条2号、間接差別の禁止)。AGCグリーンテック事件は、総合職のみを対象とした社宅制度について、間接差別にあたるとして違法と判断していますので、以下紹介します。AGCグリーンテック事件(東京地裁令和6年5月13日判決)2⑴ 事案の概要被告である会社は、総合職に対しては、転居をともなう転勤命令の有無にかかわらず通勤圏に自宅を有しない場合に借り上げ社宅制度の利用を認めながら、一般職には社宅制度の利用を認めず、住宅手当の支払いにとどめていました。そこで、そのような措置が、男女の性別を理由とする直接差別または間接差別にあたり違法であるとして、提訴されました。⑵ 直接差別に該当するか裁判所は、直接差別に該当するかという点について、以下の通り判示し、結論として直男女雇用機会均等法の趣旨に反しないか注意が必要です。例えば、対象となる総合職の従業員のほとんどが男性であり、女性従業員のほとんどは対象外となるといった場合には、合理的な理由がないかぎり、男女雇用機会均等法の趣旨に反するとして違法と判断される可能性があります。A総合職のみを社宅制度の対象とすることに問題はあるでしょうかこのたび、従業員への福利厚生の一環として、総合職の従業員を対象に社宅制度を新設しようと考えています。何か注意すべき点はありますか。Q22025.750

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