エルダー2025年7月号
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接差別については否定しています。「社宅制度の適用を受けてきたのがGを除き全て男性であったのは、……女性からの応募の少ない職種であることが原因である」こと、「制度設計の背景に、男女の別によって待遇の格差を生じさせる趣旨があったことを推認するに足りる事情は認められない」こと、実際に女性社員(G)が社宅制度を利用した実績もあることなどの事情からすれば、「社宅制度に関する待遇の格差が男女の性別を直接の理由とするものと認めることはできない」⑶ 間接差別に該当するかア 判断枠組み裁判所は、間接差別に該当するかという点について、以下の通り判断の枠組みを示しました。「均等法7条を受けた同法施行規則2条2号には、……住宅の貸与(均等法6条2号、同法施行規則1条4号)が挙げられていないものの、①性別以外の事由を要件とする措置であって、②他の性の構成員と比較して、一方の性の構成員に相当程度の不利益を与えるものを、③合理的な理由がないときに講ずること(以下「間接差別」という。)は、均等法施行規則に規定するもの以外にも存在し得るのであって、均等法7条には抵触しないとしても、民法等の一般法理に照らし違法とされるべき場合は想定される……」「そうすると、……均等法の趣旨に照らし、同法7条の施行(平成19年4月1日)後、住宅の貸与であって、労働者の住居の移転を伴う配置転換に応じることができることを要件とするものについても、間接差別に該当する場合には、民法90条違反や不法行為の成否の問題が生じる」具体的には、「措置の要件を満たす男性及び女性の比率、当該措置の具体的な内容、業務遂行上の必要性、雇用管理上の必要性その他一切の事情を考慮し、男性従業員と比較して女性従業員に相当程度の不利益を与えるものであるか否か、そのような措置をとることにつき合理的な理由が認められるか否かの観点から、被告の社宅制度に係る措置が間接差別に該当するか否かを均等法の趣旨に照らして検討し、間接差別に該当する場合には、社宅管理規程の民法90条違反の有無や被告の措置に関する不法行為の成否等を検討すべき」としています。イ 事案の検討裁判所は、上記の判断基準をもとに、以下の通り判示し、結論として間接差別に該当する違法な措置であると認定しました。「社宅制度の実際の運用は、総合職でありさえすれば、転勤の有無や現実的可能性のいかんを問わず、通勤圏内に自宅を所有しない限り希望すれば適用されるというのが実態であり、その恩恵を受けたのは、Gを除き全て男性であった」「社宅制度という福利厚生の措置の適用を受ける……比率という観点からは、男性の割合が圧倒的に高く、女性の割合が極めて低い……享受する経済的恩恵の格差はかなり大きい……。他方で、転勤の事実やその現実的可能性の有無を問わず社宅制度の適用を認めている運用等に照らすと……社宅制度の利用を総合職に限定する必要性や合理性を根拠づけることは困難である」「そうすると、……社宅制度の利用を……総合職に限って認め、一般職に対して認めていないことにより、事実上男性従業員のみに適用される福利厚生の措置として社宅制度の運用を続け、女性従業員に相当程度の不利益を与えていることについて、合理的理由は認められない。……被告が……社宅制度の運用を続けていることは、……均等法の趣旨に照らし、間接差別に該当する」所感3本判決は、均等法施行規則第2条2号の列挙事由にあたらない措置を間接差別に該当すると判断した初めての裁判例です。本判決は、総合職でありさえすれば、転勤の有無や現実的可能性のいかんを問わず、通勤圏内に自宅を所有しないかぎり希望すれば適用されるという運用実態から合理性を否定し、間接差別を肯定していますので、制度設計の際には、この点をふまえ、不当な男女差別となっていないか注意を払うべきでしょう。エルダー51知っておきたい労働法A&Q

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