エルダー2025年7月号
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エルダー53が海馬の隣にあることと関係しています。感情が大きく動く出来事があると、感情や記憶をつなぐ脳内のルートが刺激され、海馬がそれを重要な情報と判断するのです。何かストーリー性のある出来事には「楽しい」、「嬉しい」、「悲しい」などの感情がともないますが、こうした出来事の記憶は「エピソード記憶」として、長期記憶に無条件に送られるのです。勉強にポジティブな感情がともなうようになると、記憶力アップが期待できます。特に海馬は、ワクワクとしたポジティブな感情を浴びると、「シータ波」と呼ばれる脳波を出して活発に働くようになり、入ってきた情報を「重要だ」と判断します。シータ波が出ているときは、学習速度も上がるとされます。勉強そのものを好きになれなくても、ハッピーな気持ちで勉強に取り組むことができるように工夫する、あるいは、ご褒美を設定するなどして、脳が働きやすい環境をつくることが、効率的な学びにつながります。ミドル・シニアにはミドル・シニアには「長期記憶」の図書館がある「長期記憶」の図書館がある50・60代の人が学ぶうえでの大きな利点は、すでに長期記憶をたくさん持っていることです。ミドル・シニアの脳内には、まるで図書館のように、さまざまな記憶が蓄積されています。その長期記憶も、使い方を間違えれば「老害」になってしまいますが、有効活用できれば、さまざまな学びの窓口になります。まずは、自分の中の図書館の本を整理してみることが必要です。そして、足りない本を探しましょう。若いころ、図書館に入れようとしていて、入れられなかったものがあれば、それをやってみるのもよいかもしれません。昔はできなかったことでも、50・60代までにほかの脳の分野を育ててきたことによって、できることは意外に少なくありません。50・60代になってあらためて取り組んでみると、おもしろさ、楽しさが違うということもあります。長期記憶があるからこそ、いままでやってきたことに対して興味を持ちやすいし、逆にいままでやっていなかったということが興味につながることもあります。脳の中に図書館を持ち、学びの引き出しが多いのがミドル・シニアです。いろいろなことを理解するための窓口をいっぱい持っていて、学ぶチャンスもいっぱいあるのですが、そのことにまだ、気づいていない人も多いようです。(取材・文 沼野容子)の方法の一つが「理解すること」です。物事を理解するためには、脳内に蓄積されていた情報を引っ張り出し、新しい情報と結びつけることなどが必要になります。すると脳の中では、海馬とともに、理解に関係する部分が働き、脳内が持続的に活性化することで、海馬が「重要だ」と記録し、長期記憶へのルートを開くのです。大人脳では、「覚える」より、「理解しよう」とすることが大切になります。さらに、海馬に「重要だ」と強く印象づけるには、「情報をくり返し入れる」という方法もあります。つまり復習です。何かの学習を始めたら、毎日の復習によりコツコツとその情報を送り続け、海馬に「重要だ」と判断させることで、しっかり記憶に定着させることができます。ポジティブな「感情」でポジティブな「感情」で記憶力を高める記憶力を高める短期記憶の目安は長くても1~2週間とされています。例えば、昨日の食事のメニューは思い出せますが、数週間前に何を食べたのかは、なかなか思い出すことはできませんね。一方で、特別な出来事があったときの食事など、何カ月経っても覚えている場合もあります。それは、脳の中で感情や記憶処理にかかわる「扁へん桃とう体たい」

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