■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー55なお、組織の設計や運営を進めていくうえで、よく話題になるのは、スパン・オブ・コントロールについてです。これは統制範囲の原則に関係することで、一人の人間が直接管理することができる人数のことをさします。一般論では、適正なのは5~8名、最大10名程度といわれていますが、明確な根拠は見あたりません。しかし、令和6年賃金構造基本統計調査(厚生労働省)の役職者別労働者数から計算※すると、労働者に占める部長・課長比率は11・8%(部長級4・1%・課長級7・7%)で、これらの比率以外を部下(管理対象)数と置き換えると8名程度となり、係長級(6・7%)も管理を分担していると仮定すると部下数は5名程度となるため、一般論の数値は現実的といえます。基本的な組織構造の種類組織設計の5原則をふまえて組織をつくり仕組み化したものを組織構造といいます。いくつかの種類がありますが、ここでは企業経営するうえでの代表的なものを取り上げます。・機能別組織…研究開発・営業・人事など機能(全体を構成する個々の部分が果たしている固有の役割)別に分けて組織を編成したもの。業務の効率性を高めることができる一方で、組織ごとに独立して業務を行うため、組織間連携や横断的業務には向かないといわれている(図表1)。・事業部別組織…経営者のもとに事業(商品・サービス・顧客など)別に分けて組織を編成したもの。この組織である事業部のもとに機能別組織を配置することがある。市場や顧客のニーズに合わせた意思決定や、収益や責任の所在が明確になる一方、事業部間の競争が激化したり、事業部間の機能別組織に重複が発生し非効率になることもある。・カンパニー制組織…事業部制組織よ りもさらに事業に権限委譲し、独立 性を高めた疑似会社(カンパニー)で組織を編成したもの。カンパニーが独立して意思決定し、収益責任をもつため、迅速な意思決定と戦略実行が図れ、次世代の経営者育成がやりやすくなる一方で、カンパニーが別会社のような立ち位置になるため、交流がしにくくなり、会社としての一体感を保ちにくいともいわれている。・マトリクス型組織…機能と事業の二軸を縦と横で組み合わせて網の目のように構成された組織。機能と事業の二つの指揮命令を受けることになる。機能・事業間の情報共有、課題への柔軟対応ができ人的・技術的交流がしやすくなる一方で、指揮命令系統が複雑になることで現場が混乱し、責任の所在が曖昧になり意思決定の調整に時間がかかることもある(図表2)。ここまでみた通り、どの組織にもメリット・デメリットがあります。このため、ときには機能別組織から事業部別組織にしたものの、機能別組織にまた戻すといった大きな再編成を行う会社もあります。アメリカの経営史学者であるアルフレッド・チャンドラーは「組織は戦略に従う」と提唱しましたが、完璧な組織はなく、環境変化や事業の目的などによって流動的に見直され、形を変えていくものでもあります。次回は、「リーダーシップ」について取り上げます。※ 全産業の企業規模(10人以上)計・男女計・学歴計の労働者数から筆者が計算研究開発本部製造本部経営者営業本部管理本部情報システム部法務課総務課営業部営業推進部営業企画部品質管理部B工場A工場製造設計部製造開発部基礎研究部出典:筆者作成図表2 マトリクス型組織図表1 機能別組織研究開発A部門事業スタッフ営業製造機能B部門C部門出典:筆者作成
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