エルダー2025年7月号
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2025.74 今回の提言では、そういう時代に経営者が考えていく課題として、①人的資本の変革、②高齢化の進化―生涯現役社会の構築―、③共創社会の実現――の三つを掲げています。①では企業と人との新たな関係構築の必要性を提言しています。従来の終身雇用から、いつでも離職・転職するなど雇用の流動化が進み、働き方もテレワークや兼業・副業の進行など柔軟化がいっそう進んでいく時代になります。人材マネジメントが大きく変わるなかで、経営者は健康管理はもちろんのこと、リスキリングやリカレント投資をどのように行っていくかも重要になります。―②の「高齢化の進化」とはどういうものでしょうか。岡田 暦年齢通りの高齢化は自然現象です。私たちが問題にしているのは「老化」という現象であり、これをいかに予防していくかが「進化」につながります。日本の企業は中高年従業員には1回あたり5万円以上の健康診断費用を費やしているのに健康は悪化しています。さらに、いまは70歳まで働く人も珍しくありませんが、プレゼンティズム※に陥っている人も多くいます。このままでは生産性が上がらないうえに、医療費の負担もかさんでいくことになります。2025年から2040年の間に「老化」を予防し、70歳まで元気に働ける人をつくることが、日本にとって最後のチャンスだと考えています。ただし最終的な「老化」は会社では管理できません。今後は健康経営の一つの考え方として、労働者自身が主体的に健康経営を推進していくことを提唱しています。70歳まで、あるいはさらにその先も働こうと思えば、高齢者が自らの健康を主体的に管理し、予防的な取組みを積極的に進めていく必要があります。また、1社のみが健康経営を営んでも、他社が健康問題を抱えるようになるとB2Bのビジネスが成立しなくなるので、多くの企業が健康経営を営みお互いに成長しなければ社会が発展しません。③の共創社会の実現とは、お互いに健康経営を営むことを意味しています。―最後にこれから健康経営に取り組む企業の担当者にアドバイスをお願いします。岡田 まず自社にどんな課題があるかを把握することです。企業や業種によって課題は異なります。何が最も重要な課題なのかを評価しなければ効果が期待できません。自社の課題を発見するためには、例えば、協会けんぽから送られてくる特定健診のデータを利用するのも一つの方法です。課題を発見したら改善するためにはどうすればよいかを考えて具体策を実践し、さらに結果を検証するという流れが健康経営には不可欠です。また、個人のヘルスリテラシー意識を高めるには、経営者自身から「わが社の未来にとって一人ひとりの健康が非常に大切だ」と従業員に伝えることです。特に中小企業の場合は一人ひとりの従業員がそれぞれの職場で大切な役割をになっていますし、今後は高齢従業員を含めて一人でも欠けることは経営にとっても厳しくなります。従業員をだれ一人として取り残さない健康経営に取り組んでいただくことを期待しています。(インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博)従業員一人ひとりのヘルスリテラシーを高めだれ一人取り残さない健康経営の推進を※ プレゼンティズム……出社しているにもかかわらず、心身の問題が作用してパフォーマンスが上がらない状態特定非営利活動法人健康経営研究会 理事長岡田邦夫さん

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