エルダー2025年7月号
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2025.762ふすまは、木の骨組みの上に、下張りの和紙を何枚も重ねて仕上げていく。ていねいにつくられたふすまは、年月が経過してもきれいな状態を保つことができる山形県出身の井上さんは、上京してしばらく問屋で働いていたが、21歳のとき、表具師だった義理の兄に誘われ、この道に進んだ。「職人の世界を知らなかったので、最初はずいぶん戸惑いました。でも、ものづくりが好きだったこともあり、親方である義理の兄について見よう見まねでやっているうちに、だんだん仕事がおもしろくなっていきました」当時の住宅は和室が一般的だった時代。親方の腕がよかったこともあり、ゆっくり寝る暇もないほどの忙しさだったという。それでも、「つくることが好きなので、つらいと感じたことはなかった」と笑う。親方のもとで13年間働いた後、独立。以来約40年にわたり表具店を経営し、息子を含めて3人の弟子を育てあげた。4年前に代表の座を息子に引き継いだが、現在も現役でふすまの張り替えなどを手がけている。一つひとつの工程に神経を使う表具師の技能は多岐にわたるが、なかでも井上さんが「現代の名工」として評価されているのが、ふすま製作で「柱の特性に合致するように正確かつ迅速に削り付けを行うことに卓越している」点である。柱は木製のため、曲がりやねじれなどのクセがある。また、柱と鴨かも居いや敷しき居いが必ずしも直角に組まれているわけではない。そこで、実際にふすまをはめてみて、柱に当たる部分をかんなで削って調整することで、隙間がなく開閉しやすいふすまになる。この削り付けを正確かつ迅速に行うには、もちろん経験が必要だが、前提としてかんなを使いこなせることが欠かせない。「かんなはむずかしい道具です。使っているうちに変化しますし、天候によって台に反りが出ること「ていねいに仕上げてお客さまに喜んでもらうことが一番。新品のうちはわかりませんが、年数が経過するにつれて、仕上がりの差が出てきます」

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