エルダー63げて納めて、お客さまに喜んでいただけるかがすべて。ですから、一つひとつの工程に神経を使います」職業訓練指導を通じて若手職人の育成に努める井上さんは、埼玉県表具内装組合連合会の会長を約10年間務め、伝統技能の継承に努めてきた。会長職は2024年に退いたが、現在も続けているのが若手職人の育成だ。表装技能士の検定委員を務めるほか、職業訓練校で指導を行っている。さらに、少年刑務所での職業訓練の指導も15年以上続けている。これまでの指導で、2級合格率は100%だという。「要請があれば、喜んで指導します。一人でも多くの人に、技術を身につけて一人前になってもらいたいと願い、取り組んでいます」有限会社井上表具店TEL:048(794)7295FAX:048(794)3410(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)もありますので、台を削って調整することも必要です。これだけでも3年くらいの経験が必要です」本格的なふすまは、木でできた骨組みに下張りの和紙を何層も貼って仕立てる。井上さんが手がける高級なふすまでは、下張りを7回もするそうだ。和紙を貼る際はでんぷんのりを水に溶いて使うが、使う和紙によって、また工程によっても濃さを変える必要がある。「のりが濃すぎても薄すぎてもきれいに仕上がりません。のりの濃さの調整は数をこなさないと。2〜3年経験したくらいではなかなか覚えられません」経験を積んだ職人がていねいにつくったふすまは、何十年たってもきれいな状態を長く保てる。逆に手抜きをしたふすまは、最初はきれいでも、しばらくすると表面にしみやたるみなどが出てくるという。「表具の仕事は、お客さまから預かったものを、いかにきれいに仕上表具の仕事に用いるかんななどの刃物類。かんなは、ふすまの建てつけをよくするために、骨組みの周囲を削るのに使う和紙を貼るのりにはでんぷんのりを用いる。紙の種類や工程に応じて、水を加えて濃度を調整する。のりの調整は経験が求められる技能のひとつ下張りに用いる手漉き和紙。機械漉きの和紙もあるが、手漉きのほうが繊維の絡みが強く丈夫とのこと下張りの和紙にのりづけをしているところ。周囲だけにのりをつけて貼る「袋張り」をすることで、ふすまの表面に貼る表張りのしわを防ぐのりづけや和紙を貼るのに用いるはけ。用途によって、毛の種類や量・長さの異なるさまざまなはけを使い分ける。なかにはクマ、ヤギ、タヌキなどの毛のはけもかんなは天候などによって変化しやすいため、使うたびに調整が必要になる。写真はかんなの台を削るかんなで、台を平らに削っているところ vol.353
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