エルダー2025年8月号
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エルダー9特集高齢者雇用と賃金の基礎知識賃金制度と評価制度の再設計賃金制度と評価制度の再設計 ―― 役割・成果に応じた処遇の構築役割・成果に応じた処遇の構築3(1)高齢社員の活用を支える賃金制度高齢社員を戦力として活用するには、処遇と実際の職務との整合性を確保することが不可欠であるという認識は、多くの企業に広がっています。それにもかかわらず、定年を境に賃金が一律に引き下げられる一方で、職務や責任の内容が大きくは変わらないといった状況が依然として見受けられます。こうした制度と運用実態の乖離が生じる背景には、報酬設計の前提となる考え方が曖昧であること、昇降給のルールが明確に定められていないこと、評価と連動した再格付けの仕組みが整備されていないことなどがあげられます。定年を境に雇用契約が一度終了し、その後再契約を結ぶという制度設計上の前提に立てば、賃金水準も見直すのが自然な流れです。高齢社員に対しては、過去の地位や功績ではなく、現在の役割や成果に基づいて処遇を設計することが合理的です。「貢献が正当に評価され、処遇に反映される」という制度的な信頼が確保されていることは、本人のモチベーション維持に資するだけでなく、組織文化の形成にも寄与します。こうした考え方は、本来、高齢社員にかぎです。代表的なタイプは以下の四つがあります。①消極活用型:雇用継続そのものを目的とし、成果や責任を求めない②サポート活用型:周辺的な業務や役割を期待し、若手支援や限定的な業務をになわせる③積極活用型:正社員に準じた責任や成果を期待し、評価や処遇を行う④統合活用型:年齢にかかわらず期待役割を設定し、同一の人事制度を適用する(一国一制度型)人事制度の設計思想(A~D型)とマネジメントタイプ(①~④)は必ずしも一致しません。例えば、D型の人事制度であっても、現場で「正社員時代と同じ」期待を求められていれば、両者のギャップがフラストレーションの要因となります。こうしたギャップを防ぐには、企業が自社の人材活用戦略に整合する人事制度を選択し、設計思想と運用方針を一体として構築・運用することが求められます。また、これらが部門や上司によって、考え方や運用がバラバラにならないことも大切です。人事管理の目的はビジネスの成功と組織の持続的な成長です。人事制度はあくまでも手段であり、目的ではありません。場あたり的な制度整備では、これからの高齢社員の多様性と戦力化の可能性に十分には対応できません。らずすべての社員に共通のものです。また、役割や成果に応じて賃金が変動する(昇降給)仕組みをあらかじめ制度内に組み込むことは、公平性や透明性を高めるうえでも重要です。例えば、定年前と同様の職務をになっているにもかかわらず、定型的に賃金を下げる運用では、その合理性が問われる場面も増えています。特に「同一労働同一賃金」の観点からも、実質的な仕事内容や責任の程度と報酬との整合性が求められます。さらに、高齢社員がスキルや知識を深めたり、職域を広げたりして貢献度を高めた場合には、その努力と成果が評価され、処遇に反映される仕組みも必要です。多くの企業では、高齢社員の賃金が固定的であることが、挑戦や学び直しへの意欲を妨げる一因となっていることから、定期昇給のような年功的運用ではなく、役割や成果、貢献度の変化に応じて柔軟に見直せる報酬設計が求められます。例えば、半年ごとの面談と連動した報酬改定、新たな職責による見直し、後進指導への手当支給など、貢献と処遇をつなぐ仕組みの導入が有効です。あわせて、貢献が限定的になった場合などに備え「降給」や「再格付け」の仕組みも整えておくことで、制度運用の安定性と組織全体の公平性が高まります。

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