エルダー2025年8月号
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2025.810せたフィードバックにより、成長意欲とも結びつけることが可能です。評価は処遇の根拠であると同時に、配置やキャリア支援を通じて、組織全体の人材活用戦略を実現する起点となります。さらに、評価制度は単なる処遇決定の手段にとどまらず、上司と部下の間で期待役割や目標を擦り合わせる対話の枠組みとしても位置づけられ、高齢社員が安心して働き続けるための土台にもなります。おわりにおわりに4高齢社員の活用に向けた制度設計では、評価・処遇・支援といった人事制度を一体的にとらえ、再構築する視点が欠かせません。特に支援のあり方については、役割の見直しや働き方の選択肢を拡充し継続的な活躍を後押しする仕組みの整備が求められます。評価結果に基づいて次の役割を提示し、働き方や貢献度に応じた選択肢を整えることで、高齢社員の納得感と組織の安定性も高まります。こうした仕組みは、現在の高齢社員だけでなく、いずれ高齢社員となる中堅層にも適用できるよう、制度設計の構想に含めておくことが重要です。制度は「雇用維持のための対策」ではなく、多様な人材が活躍できる組織づくりを支(2)評価制度の設計と運用高齢社員の処遇を役割や成果に応じて設計するには、「何をどう評価するか」という視点が欠かせません。しかし実際には、期待される役割が十分に明示されないまま評価が行われたり、フィードバックが不十分であるといった課題もみられます。評価制度を機能させるには、業務目標の明確化と、達成状況を定期的に確認する仕組みが必要です。評価項目には、成果に加え、業務遂行上の姿勢やチームへの貢献といった行動面も含めた多面的な評価を導入することで、公平性と実効性を高めるだけでなく、モチベーション向上にもつながります。高齢社員の場合、現場対応力や後進育成、組織への安定的な貢献といった定量化しにくい要素も適切にとらえる必要があります。これらは数値化がむずかしいものの、定性的な評価基準や面談を活用し、期待される役割を本人に明確に伝えることが重要です。評価の観点を制度として明示しておくことで、自分に何が期待されているのかが理解しやすくなり、納得感も高まります。特に定性的な評価は、基準や手順が曖昧だと形骸化しやすいため、顧客対応や後進指導、周囲への働きかけなどの期待される行動を事前に明文化しておくことで、評価精度が高まります。こうした定性項目は、定期面談と組み合わえる基盤として設計・運用する視点が求められます。例えば、50代以降の社員に対し、中長期的なキャリアや希望する役割を話し合う仕組みを導入すれば、本人の主体的な準備がうながされるとともに、組織の戦略的人材配置にもつながります。こうした積み重ねが、60歳以降の多様な貢献スタイルに対応できる制度的基盤を形成します。さらに、柔軟な働き方や健康支援、知識やスキルの継承などの取組みも含め、キャリア支援は組織の人的資源管理における中核施策と位置づけるべき段階にきています。また、報酬や評価制度の再構築にあたっては、企業が自社の人材活用戦略に即して制度の設計思想・方針を明確にし、評価・処遇・支援の各制度を統合的に構築・運用する必要があります。既存制度との整合性をふまえながら段階的に導入し、組織内にていねいに浸透させていくことが重要です。特に処遇面では、実際の貢献に応じた公正で納得感のある運用が不可欠です。制度を通じて高齢社員の経験や能力を戦略的に活かし、年齢にかかわらずだれもが力を発揮できる職場環境を整えることは、人的資源を持続的に活用するための基盤となります。こうした制度整備を通じて、多様な人材が世代を超えて活躍する組織づくりへとつなげていく視点が、いま企業に強く求められています。

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