2025.816も同一労働同一賃金における「就労条件等」とは何かを見る必要があるでしょう。こちらはパートタイム・有期雇用労働法第8条にて、 「①職務内容(業務内容・責任の程度)」、「②職務内容・配置の変更範囲(いわゆる「人材活用の仕組み」)」、「③その他の事情」の三つがあげられています。つまり、正規と非正規の間に賃金などの待遇差があったとしても、上記の三つの項目にあてはまる何らかの就労条件等の相違があり、かつその待遇差が相違に応じた範囲であれば、それは均衡の取れた待遇となるわけです。逆に、そうした相違がない場合は、均等待遇の考えから待遇差を設けることはできません。そのため、仮に正規と非正規の間に相応の相違がないにもかかわらず待遇差だけがあるという場合、その待遇差は不合理と判断される可能性が高くなります。なお、三つの項目のうち③その他の事情、については、正規と非正規の待遇差を決定するうえでの労使間での交渉や、非正規から正規への登用制度があるかどうかなどが、過去の裁判例で、その判断要素としてあげられています。また、高齢者、特に定年後に再雇用された者に関しては、定年という制度の特性や現役時代とのライフスタイルの違いなどの観点から、定年後再雇用者であること自体が、「③その他の事情」になると裁判で判断されたケースもあります。5同一労働同一賃金をふまえた同一労働同一賃金をふまえた高齢労働者の賃金の見直し高齢労働者の賃金の見直しでは、定年後再雇用者の賃金決定の実務においては、これらをどう考えていけばよいのでしょうか。まず、すでに述べたように、高齢労働者のうち定年後再雇用される者については、再雇用を機に、無期雇用から有期雇用に転換したうえで、賃金を下げる方向で見直されることが少なくありません。そして、この賃金の引下げにおいては、定年前に支払われていた諸手当の多くを不支給としたうえで、業務内容やその他の就労条件等をあまり考慮せず賃金を定年前の一定の割合、多くの場合は6割前後とするケースが多く見られます。しかしながら、こうした従来の一律的な賃金の引下げは、同一労働同一賃金の観点から見ると、放置すれば違法となる場合もあるため、見直しが必要です。これを具体的に見るため、ここではとある架空の会社「A社」を例に見ていきます。このA社では、定年前の労働者には基本給、通勤手当、役職手当、精皆勤手当、家族手当が支給されていた一方、定年後再雇用では、基本給については一律に減額、諸手当については、通勤手当以外は不支給とする取扱いをしています。見直しにあたって、まずふまえておく必要があるのが、同一労働同一賃金に違反しているかどうかをどう見ていけばいいのかという点ですが、これは賃金項目ごとに見ていきます。つまり、正規と非正規の基本給を比較して同一労働同一賃金に違反していないか、あるいは正規と非正規の諸手当の一つひとつが同一労働同一賃金に違反していないかどうかを確認していくわけです。6定年後再雇用と諸手当定年後再雇用と諸手当特に、諸手当については、同一労働同一賃金の解説でも見たように、その支給目的によっては正規か非正規かどうかが、その支給不支給に直接かかわってこないものが少なくありません。そのため、基本給と比較しても同一労働同一賃金に違反しやすい項目となっています。まず役職手当については、定年前か後かにかかわらず、その支給目的から、条件を満たすかぎり支給が必要な手当となります。つまり、役職に就くかぎりは支給が必要と考えられるわけですが、逆にいうと、定年後再雇用や役職定年制度などにより役職から外れたことを理由に不支給とすることには相応の妥当性があるといえます。
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