エルダー17特集高齢者雇用と賃金の基礎知識などの見直しにより、これまでよりも軽易な業務に変わったり、職責が軽くなったりする場合は、その変更に応じた範囲で賃金を見直すことは、同一労働同一賃金に沿った変更であると考えられます。以上のことから、定年後再雇用社員の基本給については、職務内容や職責などの変更についての検討とあわせて、賃金を含む労働条件の見直しを行っていく必要があるといえるでしょう。賞与や昇給に関しても、基本的な考え方は基本給と同じです。8おわりにおわりに先に述べた通り、定年後再雇用社員の賃金の引下げは、当該労働者のモチベーションを低下させ、それは仕事のパフォーマンスにも影響します。人手不足など会社が置かれている状況にもよりますが、場合によっては、同一労働同一賃金に基づいた賃金の見直しではなく、定年後再雇用による賃金引下げの雇用慣行自体の廃止も検討すべきでしょう。いずれにしてもここまで見たように、賃金項目の支給目的や高齢者の業務内容を精査していくことが、法的にも、労働者側の納得性という意味でも重要といえます。す。理由の一つである老齢厚生年金については、最高裁の判断が出た当時よりも支給開始年齢が遅くなっているなど、当時とは状況が変化しており、そのほかの条件によっても判断が異なる可能性はありますが、少なくとも、定年後再雇用者だからと、短絡的に支給不支給を決定するのではなく、個々の会社の家族手当の支給目的に立ち戻って支給不支給の検討をする必要があるでしょう。7定年後再雇用と基本給定年後再雇用と基本給では、基本給についてはどうでしょうか。現役世代と高齢者、特に定年前と定年後の基本給に関しては、定年制度が持つ性格から、両者に支払われる基本給は、同じ名称であったとしてもその性質や支給目的が変わってくるとされています(名古屋自動車学校事件・最高裁令和5年7月20日判決)。そのため、定年前と後で職務内容等に相違がない場合であっても、基本給に差があること自体はある程度許容されると考えられますが、とはいえ、基本給の性質や支給目的と待遇差に関して、どういった違いがあればどこまで差を設けてよいか、という点に明確な基準は現状ありません。なお、定年後再雇用を機に、職務内容や職責次に、精皆勤手当ですが、こちらは過去の最高裁判所の判例(長澤運輸事件・最高裁平成30年6月1日判決)にて、定年前と後で、出勤をうながすという支給目的やその必要性が変わらないかぎり、基本的には支給が必要な手当との判断が出ています。そのため、定年後再雇用を理由に不支給としている会社があるとすれば、見直しを急ぐべき手当となります。最後に家族手当についてですが、こちらは最高裁判所における判決にて、現役世代を対象とする事案と定年後再雇用者を対象とする事案で異なる考えが示されている手当となっています。現役世代の判断となった判例(日本郵便事件・最高裁令和2年10月15日判決)から見ていくと、こちらでは正規か非正規かといった雇用形態にかかわらず、契約社員であっても「相応に継続的な勤務が見込まれる」のであれば、扶養手当を支払う必要があるとしました。一方、定年後再雇用者に関する判例(長澤運輸事件)においては、老齢厚生年金がもらえることや、現役世代と高齢者のライフスタイルの違いなどを理由に、不支給とすることを不合理とは認めないとする判断が出ています。つまり、高齢労働者に関しては「その他の事情」として、高齢労働者特有の事情が考慮され、不支給でも不合理ではないという判断につながったわけで
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