エルダー2025年8月号
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2025.840うございました」と伝えてきたそうで、お客さまへの感謝の気持ちを大切にしてきた柿﨑さんの仕事への姿勢がうかがえます。現在は、車両点検やタイヤ交換、車検のための車両運搬などを担当し、「自分から仕事を探し、車庫内の掃除や整理整頓を心がけること」を大切にして、少しでもドライバーの負担が減るよう心を配っています。森もり下した幸こう二じさん(74歳)は、ほかのバス会社を定年退職後、同社に68歳で入社し、週5日、スクールバスや貸切バスを運転する現役ドライバーです。国鉄バスで働いていた父親の影響から、バスへの憧れを持ってこの道に進みました。「子どものころからの憧れをかなえたことが何よりもやりがいになっています。私はバス一筋でやってきました」と誇りを持って語ります。森下さんはドライバーだけではなく、管理部門の輸送課や営業課、営業所長など多様な業務経験があります。運行管理や運転手への指導を行い、公共交通で社会的に大きな事故が起きた際には、所属する会社の風評被害やトラブル防止に努めました。その知識と経験をいまの職場で活かして働いています。森下さんは、「安全運転と防衛運転を最重要視しています。事故を起こさない・起こさせない・巻き込まれない。安全運転を徹底し、会社が必要とするかぎり働きたいです」と語ってくれました。ちなみに、同社の新たな人材の採用は、現役ドライバーからの紹介が約9割を占めているそうです。他社で定年を迎えたベテランドライバーも多く、以前の会社の同僚として紹介されると、会社側も安心して採用することができ、また社員が「居心地のよい会社」と感じているからこそ、知人を安心して紹介できる好循環が生まれています。今回はバス業界で長く働き、豊富な経験を持つ3人にお話をうかがいました。ベテランドライバーのプロ意識と会社愛柿かき﨑ざき勝かつ義よしさん(82歳)は、同社の最高齢社員。74歳で入社し、今年からは運行管理補佐として勤務しています。週に3~4日、6時から13時30分までのパートタイム勤務です。かつては他社で観光バスの運転を経験し、同社入社後は、スクールバスの運転手として活躍していました。走行中に座っていられない児童たちの安全確認や忘れ物に特に気を配っていたといいます。「子どもははしゃぐし、家の鍵や水筒など、座席に忘れ物をすることも多いので、乗車・降車の確認や忘れ物のチェックを徹底していました」と、柿﨑さん。子どもたちが降車する際には、必ず「ありがとるよう制度化しました。70歳以降は、1年ごとの更新となりますが、よほどのことがないかぎり会社から退職を求めることはありません」(的場支配人)世間一般では、ドライバーの離職率が高い傾向にあるといわれるなかで、同社の離職率は非常に低いそうです。その要因について的場支配人は、「高齢社員の退職理由は、年齢による体調不良が多い傾向にあります。当社では長距離運転や夜間勤務がほぼなく、スクールバスや地域密着型のコミュニティバスがメイン業務ですので、高齢のドライバーでも無理なく働くことが可能です」と語ります。さらに、業務の内容自体が人とのつながりを生み出し、それが働きがいにもつながっているといいます。同社では、担当車両や運行コースを固定しているため、運転手は子どもたちの名前を自然と覚え、小学校6年間にわたって成長を見守り、中学校の部活動送迎で再会することもあるそうです。コミュニティバスでは常連客も多く、ドライバーと地域住民の間には温かな関係が育まれています。このような地域に根ざした仕事は、高齢社員にとっての「生きがい」にもなっており、子どもたちの元気な顔を見ることが働くモチベーションにつながっています。

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