エルダー2025年8月号
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高齢者に聞くエルダー43年前から労働安全コンサルタントとして活動するためにNPO法人設立の準備を始めていました。そのころ東日本大震災が発生、東北の復興を考えて仙台を拠点にしようと思いました。ほかのゼネコンで働いていた仙台の仲間たちからの協力も得て、2012(平成24)年に「NPO法人安全技術ネットワーク」を設立、理事長に就任しました。NPO法人設立と同じ時期に、建設業労働災害防止協会(建災防)から声がかかり、東北復興事業に1年ほどかかわりました。「施工計画等に活用できる災害事例研究マニュアル検討委員会」の委員を務めるなど学ぶことも多かったですが、NPO活動に力を注ぎたいと思い退職しました。建災防を1年で辞めたときには「建災防を辞めるなんてもったいない」と周囲から呆れられたという浮田さん。退職の理由は「自分のやりたいことがあるから」。やりたいことがあって楽しく働ける、これこそが生涯現役のヒントなのかもしれない。働く人の役に立つ仕事を目ざして私が労働安全コンサルタントを志したのは、建設業で働く多くの職人さんたちの役に立ちたいというひとすじの思いからです。仙台の拠点はいまも機能していますが、地方ではできることにもかぎりがあって、東京にも拠点をつくりました。このため次第に企業からの相談が増えたこともあり、2020(令和2)年に企業からの相談業務に対応するための株式会社を設立、代表取締役になりました。NPO法人と株式会社が支え合って活動するなど双方にとってよい面がたくさんあります。また、会社の経営には息子をはじめ家族が運営に協力してくれており、感謝しています。NPO法人には18人が所属しており、半数が労働安全コンサルタントの資格を持っています。安全管理の知識が豊富なことはもちろん、話したり書いたりする能力も求められ、自分も含めて自らの研けん鑽さんがとても大切です。法律も頻繁に改正されますから、毎日が勉強です。建設業は時代とともに発展を遂げていますが、時代遅れの部分は私が入社したころとあまり変わっていないような気がします。「建設女子」などという言葉もありますが、現場のパトロールを行う女性の職人にはピンクの保護帽を使用している企業もあって、これこそが女性差別ではないかと私は見ています。私が60歳で定年を迎えたときには、後継者に女性を指名できるよういろいろ奔走しましたが、願いはかないませんでした。女性が管理職になり、中央省庁の幹部と対等に渡り合えるようになれば、建設業に対する見方も少しは変わるのではないかといまも信じています。生涯現役に挑戦を建設業界では「安全第一」を掲げる企業が多いですが、私は「安全」をお題目のように唱えることは好きではありません。むしろ、極力危険を排除することが重要であり、「安全に働けること」が必要だと私は思います。いま、月に1回マレーシアのデベロッパー(土地や街を開発する事業者)が設立した現地法人で日本における建設業の安全衛生管理の実務を指導しています。そこで働く日本人の技術者たちは熱心に話を聞いてくれます。私からは、「まず現場をしっかり観察しなさい」ということをくり返し伝えています。「次々と現場に現れるリスクにどう対処するか」という気持ちに耳を傾けることが私たちにできることだと思います。月に一度の出張もだんだん身体にこたえるようになってきましたが、目を輝かせて聞いてくれる人たちの顔を思い出すと、もう少し続けようかという気持ちになるから不思議です。現在、NPO法人の活動は順調で、やりがいを感じられる毎日です。健康に気をつけて少しずつ前に進み、NPOを立ち上げたときの初心を忘れず、働く人に寄り添える労働安全コンサルタントを目ざして、生涯現役の日々を楽しんでいこうと思っています。

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