合理でなければ許容されますので、退職金についても同様の判断に従うことになります。他方で、雇用中の全期間について業務の内容と責任の程度、それらの変更範囲が期間の定めのない労働者と同一の場合は、差別的取扱いが禁止され、均等待遇が必要となります。過去に退職金支給差異に関する最高裁判例として、メトロコマース事件(最高裁令和2年10月13日判決)があります。下級審の判決では、退職金が賃金の後払的性格と長年の勤務に対する功労報償の性格を合わせて有していることをふまえて、功労報償に相当する部分にかかる退職金の不支給が不合理と判断されていました。ところが最高裁では、「退職金の性質やこれを支給することとされた目的を踏まえて同条所定の諸事情を考慮することにより、当該労働条件の相違が不合理と評価することができるものであるか否かを検討すべき」ことを前提として、「正社員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的から、様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの」として、職務の内容および変更の範囲に一定の相違があったこと、退職金支給対象となる正社員への登用制度が用意されていたことなどをふまえて、「10年前後の勤続期間を有していることをしんしゃくしても、両者の間に退職金の支給の有無に係る労働条件の相違があることは、不合理であるとまで評価することができるものとはいえない」と判断しています。したがって、長期間勤続しているとしても、退職金の支給の相違が不合理と認められる可能性は低いものと考えられています。裁判例の紹介2近年、契約社員(期間の定めのある労働者)と正社員(期間の定めのない労働者)との間で、退職一時金の支給、退職年金の支給について、それぞれ契約社員にも支給されるべきとして紛争となった事案があります(日本サーファクタント工業事件(東京高裁令和6年2月28日、東京地裁令和6年1月12日判決))。退職一時金の支給に関しては、メトロコマース事件と同様の基準をふまえつつ、「様々な部署等で継続的に就労することが期待される正社員に対し退職金を支給することとしたもの」、「業務内容に違いはないものの、…雇用契約書において業務内容が定められ、配置転換、出向の有無や昇格、昇給、専任職の制度の適用がないなどの点で異なる」、専任職である契約社員について「定年退職時まで相応の年俸制による給与が支払われる」として、「正社員と同様の見地からの配慮は要しないものとして、…退職一時金を支給しないものとすることが必ずしも不合理であるとまではいえない」と判断されています。退職年金も退職一時金と同趣旨の支給理由であるとすれば、同じ結論に至りそうですが、そうはならず、退職年金については契約社員である原告を支給対象にすべきと判断されました。その理由は、同一労働同一賃金の観点からの判断ではなく、「退職年金規定の文言上、契約社員がその支給対象に含まれ得る」として、契約社員に対して退職年金を支給することがこれまでの実態と異なるものであるとしても、退職年金の支給対象と解釈するこエルダー49知っておきたい労働法A&Q図表 均衡待遇と均等待遇※ 筆者作成対象となる待遇前提条件考慮要素許容されない差異均衡待遇基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ短時間・有期雇用労働者であること職務の内容職務および配置の変更の範囲その他の事情不合理と認められる相違均等待遇基本給、賞与その他の待遇のそれぞれ短時間・有期雇用労働者であることを理由としていること職務の内容職務および配置の変更の範囲差別的取扱い
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