れるものではない」として、①被告が雇用者であること、②被告が施設の管理運営者であることの2点を理由に、労働契約上の指揮命令権および施設管理権を根拠として、録音禁止の業務命令権を肯定しています。ウ 録音禁止命令の正当性録音禁止命令の趣旨については、「被用者が無断で職場での録音を行っているような状況であれば、他の従業員がそれを嫌忌して自由な発言ができなくなって職場環境が悪化したり、営業上の秘密が漏洩する危険が大きくなったりするのであって、職場での無断録音が実害を有することは明らかであるから、原告に対する録音禁止の指示は、十分に必要性の認められる正当なものであったというべきである」として、①職場で自由な発言ができなくなることによる職場環境の悪化の危険、②営業上の秘密の漏洩の危険の2点をあげています。なお、②営業上の秘密の漏洩の危険という点については、「被告が秘密情報の持ち出しを放任しておらず、その漏洩を禁じていたことは明らかであり……原告が主張するような一般的な措置を取っているか否かは、情報漏洩等を防ぐために個別に録音の禁止を命じることの妨げになるものではないし、そもそも録音禁止の業務命令は、……秘密漏洩の防止のみならず、職場環境の悪化を防ぎ職場の秩序を維持するためにも必要であったと認められる……」として、厳格な秘密管理措置がなされていないことをもって録音禁止命令の有効性が否定されるものではないとしています。エ 原告の録音禁止命令違反等への評価裁判所は、「原告は、被告の労働契約上の指揮命令権及び施設管理権に基づき、上司らから録音禁止の正当な命令が繰り返されたのに、これに従うことなく、懲戒手続が取られるまでに至ったにもかかわらず、懲戒手続においても自らの主張に固執し、譴けん責せきの懲戒処分を受けても何ら反省の意思を示さないばかりか、処分対象となった行為を以後も行う旨明言したものであって、会社の正当な指示を受け入れない姿勢が顕著で、将来の改善も見込めなかったといわざるを得ない。このことは、原告が本人尋問において、仮に復職が認められても、原告から見て身の危険があれば、録音機の使用を行うと表明していること……からも顕著である」として、原告の録音禁止命令違反およびその後の反抗的な態度について厳しい評価をしています。オ 結論裁判所は、このほか、従前から存在していた居眠りや業務スキルの不足、復職手続きの不履践なども認定したうえで、「もともと正当性のない居眠りの頻発や業務スキル不足などが指摘され、日常の業務においても、従業員としてなすべき基本的な義務を怠り、適切な労務提供を期待できず、私傷病休職からの復職手続においても、目標管理シート等の提出においても、録音禁止命令への違反においても、自己の主張に固執し、これを一方的に述べ続けるのみで、会社の規則に従わず、会社の指示も注意・指導も受け入れない姿勢が顕著で、他の従業員との関係も悪く、将来の改善も見込めない状態であったというべきである」として、解雇を有効と判断し、原告の請求を棄却しました。本裁判例をふまえて2本裁判例では、①被告が雇用者であること、②被告が施設の管理運営者であることの2点を理由に、労働契約上の指揮命令権および施設管理権を根拠として、録音禁止の業務命令権を肯定しています。一般的に、会社は上記①②を満たしている場合がほとんどと思われますので、本裁判例の論理によれば、ほとんどの場合、会社の録音禁止命令権は認められることになるでしょう。なお、本裁判例では、録音禁止命令に就業規則の規定は必ずしも必要ないとされていますが、無断で録音されてしまっては、録音禁止命令を行うタイミングがありません。また、従業員の納得感からしても、実務上の対応としては、社内での無断録音の禁止について、就業規則に規定しておくことがよいでしょう。エルダー51知っておきたい労働法A&Q
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