■■■■■■■■人事用語辞典いまさら聞けないエルダー55絶対的な解はありません。特性理論のなかでは、中国の孔子は『論語』※3のなかで資質として“人徳”が重要と述べている一方で、イタリアのマキャベリは『君主論』※3で“冷徹で、目的のためには手段を選ばない姿勢”が重要と、異なることを述べています。行動理論でみていくと、代表的なものにPM(ピーエム)理論※4というものがあります。これはリーダーシップに必要な行動を「P:目標達成」(目標を掲げ計画を立て達成に導く)と「M:集団維持」(組織の人間関係を良好にし、チームワークを強化する)の二つの軸で分け、PとMのうち、強く行動として発揮できている状態を大文字、弱い方を小文字で表現(PM型・Pm型・pM型・pm型)で類型化します。二つの軸が強く発揮できている状態をPM型とし、理想的なリーダーシップとしました。一方、状況適用理論の代表的なものにSL(エスエル:Situational Leadership)理論※5があります。ここでは、リーダーシップのスタイルを具体的な指示命令を与える「指示型」、相手の理解をうながし納得させる「説得(コーチ)型」、相手を支援し協力しながら意思決定する「参加型」、相手に権限委譲し主体的に行動させる「委任型」に分かれるとしています。これはどれが正しいというわけではなく、相手や組織の状況に応じてスタイルを変えるのが望ましいとしています。いままで述べたのは、どちらかというと上司から部下へどのようなリーダーシップを取っていくかの視点に立っていますが、異なる視点のものにサーバントリーダーシップ理論※6というものがあります。ここでは、リーダーはサーバント(奉仕者)としての役割を果たすことで、相手を導くことができるとするものです。ここではリーダーが指示をしたり強い姿勢で相手を導くよりも、相手の話を傾聴・共感し信頼関係を築いたうえで、リーダーは相手にとって必要なサポートを行い、主体的な行動と成長をうながすのが望ましいとしています。この理論自体は新しいものではありませんが、個人が自律的に行動する組織のほうが昨今の激しい環境変化に対応しやすいため、近年再注目されています。シニア社員こそリーダーシップの発揮を企業に属していると、役職定年や定年退職により、一定年齢でマネジメントの役割から解かれることが多くみられ、それを機にシニア社員は人を導く立場から退き、後方支援へと意識が変わりがちです。一般社団法人日本経済団体連合会の「高齢社員のさらなる活躍推進に向けて」調査(2024年)によると、企業が高齢者雇用において課題と感じている項目(複数回答)の上位1・2位は「高齢社員のエンゲージメントやパフォーマンス(87・9%)」、「技能伝承と貢献者育成(77・2%)」といった状況で、リーダーシップの発揮には至っていなさそうです。しかし、マネジメントとリーダーシップはしばしば混同されますが、マネジメントは組織の目標達成のために人に指示し、経営資源を管理・運営する“役割”をさすため、個人の“資質”や“能力”、“行動”などに依拠するリーダーシップとは本質的に異なるものです。マネジメントの役割を終えても、例えば、現場での若手社員の育成支援、人脈と経験を活かした組織の調整役、自身の得意分野での業務推進、困難な案件支援などさまざまな場面でリーダーシップの発揮の場があり、年齢に関係なく発揮できます。「後進に譲る」という考え方よりも、「後進が成長するようにリーダーシップを発揮する」という視点を持つことで、シニア社員のモチベーションは大きく変わります。企業がシニア社員のリーダーシップ発揮を積極的にうながすことは、組織の活性化や持続的成長にもつながる重要な取組みといえるでしょう。* * *次回は、「障害者雇用」について取り上げます。※3 『論語』は紀元前5世紀ごろ、『君主論』は16世紀に書かれているといわれている※4 日本の社会心理学者である三み隅すみ二じゅ不う二じにより1960年代に提唱※5 アメリカの行動科学者ポール・ハーシーと組織心理学者のケネス・ブランチャードによって1970年代に提唱※6 アメリカのロバート・K・グリーンリーフによって1970年代に提唱
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