2025.862「ときここち」は、触り心地のよさを目ざし、利根さんが1本1本手作業で製造している。写真は、尖った端面を丸く滑らかに仕上げる「削り」の工程(昭和36)年に創業。精密板金加工を専門とし、駅のホームドア、銀行のATM、新幹線や建物の自動ドアなどの精密部品を製造している。同社の強みは、最新のNC加工機と昔ながらのプレス加工機を使い分け、多様なニーズに応えられる柔軟性にある。利根さんが特に重視しているのが品質管理だ。「金型の状態が悪ければバリ(余分な部分)が出ます。それを見て金型の減りに気づけるのは人です。どんなに機械が進化しても、最終的には人の手と目が大事です」品質を保つことで築いた顧客からの信頼は同社の財産でもある。自動ドアの部品を納める顧客とは、50年近く取引きが続いている。1本1本手作業で仕上げ安全で触り心地のよい商品に利根さんが社長に就任したのは2002(平成14)年、40歳のとき。その後、ある製品の部品の特需で売上げが急拡大したものの、数年で終わり、従業員を解雇するという苦い経験をした。受注依存のリスクを痛感し、その後安定した収益が得られる自社製品の開発に着手。「そんななか、妻が白身が大の苦手だということをヒントに、卵を混ぜる専用器具(ときここち)を開発することにしたのです」端材から始めて試作を重ね、0・1mm単位の調整をくり返し、約1年半かけて完成させた。先端の3本の0・7mm幅の線で、白身を細かく砕く。1枚の板でできているため、壊れにくいのも特長だ。「ときここち」はさまざまなメディアに取り上げられ大ヒット。現在も注文に生産が追いつかない状況にある。その理由は、すべての製品を利根さんが1本1本手作業で仕上げているためだ。特殊ステンレス板をレーザー加工機でカットして形を抜くが、切り始めの部分に小さなバリが残る。また、端面は尖っているため、丸く削る「どんなに機械が進化しても、最終的には『人の手と目』が大事。品質管理を重視し、お客さまに満足いただけるものづくりを心がけています」
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