エルダー2025年8月号
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エルダー63解するのが好きだったという。家業に就いたのは1980年、18歳のとき。それまでの大量生産から少量多品種生産に対応するため、先代社長が当時最先端のNC(数値制御)加工機を導入。担当として、高校でプログラミングを習った利根さんに白羽の矢が立った。「『見て覚えろ』タイプの父から直接教わることはなく、ほとんどのことは自分で手を動かしながら覚えました。私が持っている技術は社員に出し惜しみせず教え、小規模でもさまざまなニーズに対応できる多能工化を進めています」現在は「ときここち」の新たな商品展開にも取り組んでいる。すでにプロ用の大型サイズを製品化ずみだが、家庭のキッチンで使う中間サイズの開発を検討中だ。技術を後進に着実に引き継ぎながら、新たな挑戦を続けている。株式会社トネ製作所TEL:03(3895)7791https://tone-ss.co.jp(撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英)必要がある。そのバリ取りや端面削りを、すべて利根さんが手がけている。部分によって力加減を変えながら削る工程は、機械にはできない熟練ならではの技だ。ほかの社員でもできないことはないが、効率の面で及ばないという。また、使いやすいように少し曲げが加えられているが、この加工法も試行錯誤のうえに編み出されたもので、企業秘密になっている。こうしてできた「ときここち」は、利根さんが40年以上にわたりつちかった技術の結晶といえる。それが評価され、2024(令和6)年度の「荒川マイスター」に認定された。40年以上の経験でつちかった技術を次世代へつなぐ「プレス機の音を子守歌代わりに育った」という利根さんは、子どものころから物の仕組みを知りたがる性格で、いろいろな物を分特殊ステンレス板を「ときここち」の形に抜く工程で使用されるレーザー加工機。0.1mm単位の高精度加工が可能「ときここち」は特殊ステンレス板を加工してつくられる。写真はレーザー加工機で「ときここち」の形に抜いた状態の板レーザーで切り抜いたままでは無機質な金属の板(下)が、利根さんの手による加工を経ることで、温もりの感じられる道具(上)へと変化する「ときここち」の開発では、金属の端材から始まり、“ユーザー代表”である利根さんの妻の率直な意見を聞きながら、さまざまな試作を重ねて完成形にたどり着いたトネ製作所の工場には、プレス加工機、レーザー加工機、曲げ加工をするNCベンダーなど、金属を加工するためのさまざまな設備がそろう令和6年度「荒川マイスター」を受賞。「ときここち」が「精密板金の匠が繰り出す卓越した技術のフルコース」と評価された vol.354

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