エルダー7特集高齢者雇用と賃金の基礎知識図表1 人事管理のサイクル学生など求職活動中の人採用仕事に必要な教育実施働きぶりの評価報酬・昇進決定退職働く条件の整備仕事に配属(就職活動)定年後も働くシニア(再雇用)出典:塗茂克也,仁平晶文,藤波美帆,他(2025)『初めての経営学 社会人にも役立つマネジメントの基本』ビジネス実用社,第6章「人材マネジメント」総論はじめにはじめに―― 高齢社員を活かす高齢社員を活かす人事制度設計とは人事制度設計とは1少子高齢化と生産年齢人口の減少が進行するなか、高齢社員の活用は企業にとって、人事戦略上の重要課題となっています。特に、再雇用時の処遇面、とりわけ賃金の引下げや、評価のあり方への配慮不足が、高齢社員の働きがいやモチベーションの低下を招き、結果として組織全体の生産性にも悪影響を及ぼす懸念が指摘されています。こうした課題の背景には、多くの日本企業で採用されている「一国二制度型」と呼ばれる制度構造があります。これは60歳を境に正社員としての雇用契約が終了し、新たな枠組みで再雇用する仕組みです。年功賃金の累積を一度リセットすることで人件費の抑制を図りつつ、雇用を継続できる点で一定の合理性を持っていますが、この仕組みを全社員に一律に適用した場合、現場では制度と職務実態の間に乖離が生じやすくなります。例えば、定年前とほぼ同じ職務を継続してになっているにもかかわらず、大幅に処遇が下がる、あるいは期待役割や評価基準が曖昧なまま配置され、報酬も決まり、納得感が得られないといったケースです。制度と職務実態との間にこうした乖離が生じる現状は、人事管理のなかで、高齢社員の位置づけそのものを、あらためて問い直す契機となっています。このような現状をふまえると、現在多くの日本企業が直面している高齢社員の戦力化や雇用の継続には、評価や処遇といった人事要素を個別に見直すだけでは不十分であり、採用(再雇用)、配置、教育、評価、報酬、そして退職といった人事管理全体のサイクルのなかに、高齢社員高齢者雇用における適切な賃金・評価制度の重要性高齢者雇用における適切な賃金・評価制度の重要性―― 戦力としてのシニア活用に向けた人事戦略戦力としてのシニア活用に向けた人事戦略 ――千葉経済大学 経済学部 教授 藤ふじ波なみ美み帆ほ
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