エルダー2025年9月号
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エルダー35食品と観光に一貫してたずさわり、食品メーカー時代には工場見学やちくわ・かまぼこづくりの体験コーナーを設けて観光客誘致に成功するなどの実績もあります。「味わうことは、まちを旅すること」、そんな感覚で西本さんは“食”を“観光”と一体化させてきました。「食品と観光は自分のなかでは一つです。この分野の知識と経験、あとは口だけで生きてきました。これが私のすべて」と笑う西本さん。場を一瞬で和ませる名物店長です。西本さんは人間味あふれるマネジメントでもスタッフの信頼を得ています。「人間関係というのは、組織の一つの大きなコミュニケーションになるわけです。気分よく働いてもらうのが第一」と語る通り、スタッフそれぞれの個性や状況を把握し、特に深入りはせずに相手を尊重する距離感を大切にしています。毎年、地元高校の食物科からインターンシップを受け入れており、過去にはインターン生がそのままアルバイトとして定着したこともあるそうです。若いスタッフの育成にも意欲的です。藤本さんは、特に西本さんと調理長との絶妙なコンビネーションが店づくりに活きていると話します。「西本さんと調理長は20歳近く年が離れていますが、同じ高校の先輩と後輩という間柄もあってか息がぴったりです。ホールを店長が、調理場を調理長がまとめ、互いの持ち場を尊重して、意見を出し合いながら協力しています。夏場の繁忙期は、ホールと厨房の連携が特に重要になりますが、事前に打合せを念入りにし、注文が一気に集中する時間帯でも互いの動きに呼応する“阿あ吽うんの呼吸”で乗り切っています」(藤本さん)「厨房とホール、どちらかが詰まると店全体が止まってしまいます。だから調理長とはよく話します。ちょっとでもお客さんをお待たせしたくないですから」(西本さん)来客アンケートでは「接客が印象的だった」との声も多く、おいしい食事はもとより、名物店長率いるホールスタッフの接客が満足度につながり、リピーターの獲得および売上げ増に寄与しています。「売上げ、来客数は伸びています。ですが、絶好調時が一番危ないと思っています。守りに入らず攻めの姿勢を維持して、若手へ現場を託す準備を進めていきたいです」と西本さんはふと厳しい表情で方針を語りました。まちづくり小浜は、2024年に敦賀まで延伸した北陸新幹線を追い風に冬の閑散期をなくすことを次なるテーマに据えています。藤本さんは、「高齢の方々には観光客や若手社員に、小浜の魅力や歴史、食文化を伝えてほしいです」と、小浜を一流の観光地にするため、高齢従業員が果たす役割に大きな期待を寄せていました。取材後、國久プランナーは、以前から提案している定年年齢を65歳、ならびに継続雇用の年齢を70歳へ引き上げることについてふれ、「いまは全従業員の約7割が非正規雇用であり、定年到達者が少ないため、定年制度の実感は薄いかもしれませんが、定年や継続雇用制度の見直しを含め、より長く安心して働ける環境づくりを今後とも支援していきたいです」と語りました。観光客の通年化が実現すれば雇用もより安定し、定年年齢を65歳に、70歳までの継続雇用の本格検討も現実味を帯びるかもしれません。ベテランの地域知を観光客の食文化体験に転換し、若手へ技術と文化を継承する挑戦はこれからが本番といえそうです。(取材・西村玲)接客をするレストラン「濱の四季」店長の西本一郎さん

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