エルダー2025年9月号
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エルダー41安全配慮義務とは、就労により病状が悪化したり、再発したり、労働災害が生じたりしないよう、事業者が労働者の疾病の種類や程度に応じた措置を講じる責任です。がん自体が仕事によって悪くなることはほぼありません。しかし、日常生活上で医療機関から禁止されていることは、職場でも避ける必要があります。例……「骨転移があるから重たいものは持たない、腕を捻らない」、「術後3カ月は重量物の取り扱いは避ける」など合理的配慮は、患者さん自身が働きやすくなるための工夫です。安全配慮とは異なり、医学的禁忌とまではいえないことがらへの対応です。例……「下痢の副作用があるので、長距離出張は避ける」、「体力低下があるため、徐々に業務量を増やす」など治療を継続するうえでの配慮は、おもに、通院や副作用が強い時期のための欠勤を許容する配慮です。これらの配慮を適切に行うには、労働者の職務内容を記載した勤務情報提供書と、主治医が医学的見地から意見を記した主治医意見書を通じた医療機関との連携が不可欠です。配慮の検討の際には、配慮が実施可能なものか、配慮を実施するおおよその期間、配慮を実施することで影響を受ける職場の上司や同僚の理解などを考慮するとよいでしょう。5必要な配慮とフォローアップ一度配慮したら終わりではなく、継続的なフォローアップが不可欠です。特に治療を継続している方は、治療の変更、それによる体調の変化などに合わせて、配慮が必要となることがあります。図表3のような視点でフォローアップをするとよいでしょう。今回は、事例対応の流れとポイントをご紹介しました。がんの事例対応は、事例ごとに必要な対応は異なりますが、基本方針の表明や意識啓発、休業したときに説明する資料などの準備や相談窓口の明確化、短時間勤務制度などの利用できる制度整備などは、共通して必要なことです。高齢労働者のがんの罹患の頻度は高いこと、「不治の病」から「つき合う病気」へと変化しつつあるがん種も増えており、働けるがん患者が増えています。無理なく働くためには会社の制度など環境整備が重要です。ぜひ、事例が出る前に、もし事例が出ていれば、その事例を契機に、環境整備をしていただければと思います。高齢労働者の方ががんになっても、生きがいを持って働き続けられる職場づくりが求められています。出典:厚生労働省科学研究報告書「治療と仕事を両立する患者に対する継続的な支援の実態と方策の検討」図表3 フォローアップの視点1.通院しやすさなど、仕事をしながら治療に取り組むことができる状況か?2.治療中の、体調について自身でコントロールできる状況か?3. 勤怠の乱れがなく、仕事で十分なパフォーマンスを発揮できているか?4.会社が求める就業レベルが医学的に妥当であるか? (主治医意見書による必要な配慮とかけ離れていないか)5.上司や同僚から継続的な理解や支援があるか?6.職場から支援を受ける姿勢や、周囲への説明力が整っているか?7.職場の考えと本人の自覚との間にギャップが生じていないか?8.困りごとの変化や新たな困りごとはないか?

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