2025.94仕組みです。経営陣の間では、もともと「定年を一定の年齢で区切るのはいかがなものか」という議論もありましたし、引退は基本的には本人の働く意欲や実力、組織への貢献度合いによって決まるべきであり、年齢は関係ないという考え方がベースにあります。とはいえ世の中の一般的な定年60歳、法律が求める65歳までの雇用確保という流れを見据えつつバランスを取りながら制度を改革してきました。そしていまでは65歳までの雇用があたり前になるなかで、もはや年齢ではなく実力・貢献度を重視すべきという議論をふまえ、一部ではありますが65歳を超えて働ける仕組みを設けました。年齢上限を撤廃した継続雇用制度は、部署からの推薦をもとに会社が認めた場合に適用され、対象者は特別任用制度の役職者に限定しています。したがって現時点ではそれほど多くはありません。退職金などの関係でいったん退職という形をとりますが、65歳以降の役割や処遇はそれ以前と変更はありません。―高齢労働者の個々の事情に応じた働き方の多様性や柔軟化の動きも出てきています。その点に留意した施策などがあれば教えてください。安田 2024年10月から、60歳以降の社員を対象とした短日勤務・短時間勤務制度を導入しています。短日勤務は週3日または週4日のフルタイム勤務から選択できます。また当社の1日あたりの所定労働時間は8時間ですが、短時間勤務の場合は、週5日勤務者については1日あたり7時間、6時間、5時間の短縮勤務を選択することができます。いずれも育児・介護などの事情に関係なく自由に選択することができます。60歳以降は退職後も含めて自分の第二の人生についていろいろと考える時期でもあります。第二の人生に向けて準備する時間を取ったり、あるいは単純にフルタイム勤務は負担が大きかったり、気力・体力を100%保つのがむずかしいという人もいるでしょう。そうした人たちに働く時間の選択肢を与える目的で制度化しました。―自分のキャリアを自ら描く「キャリア自律」が叫ばれています。65歳まで意欲的に働くためのキャリア開発支援などの取組みについてはいかがでしょうか。安田 対話を通じて自らのキャリアについて考える「キャリア相談窓口」を社内に設置しています。キャリアカウンセラーの資格を持った人が対応し、予約すればいつでもキャリア面談を受けることができます。また、年代ごとに全員参加のキャリア研修を2018年から実施しています。中高齢層については、以前は55歳時のキャリアプランセミナーしか実施していませんでしたが、現在は29歳、39歳、49歳、59歳と10歳ごとの節目の時期にもキャリア研修を実施しています。特に中年以降はこれまでの自分のキャリアをふり返り、今後のキャリアについてしっかりと考え、今後どうしていくか、自分のキャリアを描く機会になっています。(インタビュー・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)短日・短時間勤務制度、キャリア研修などにより高齢社員が意欲的に働ける環境を整備本田技研工業株式会社 コーポレート管理本部 人事統括部長安田啓一さん
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